(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ファーゴ』幸せは欲を超えたところにある。コーエン兄弟の傑作、その魅力
随所に生きるトボケたユーモア
コーエン兄弟の作品で、もっとも特徴的なのはトボケたユーモア。『ファーゴ』はおそらく、そのトボケ感がもっとも色濃く出た作品だ。まずは、タイトルの“ファーゴ”。これはノースダコタ州の町の名だが、そこはジェリーがカール&ゲアと取引する際の舞台としてわずかに冒頭に登場するのみ。以降はミネソタ州ブレイナードが舞台となる。コーエン兄弟によると、”ブレイナード”よりも”ファーゴ”の方が響きがクールだからタイトルにしたというから、なんとも人を食っている。
さらに人を食っているのが、”この映画は実話に基づいている”という、オープニングのテロップ。確かに実際に起こった事件からヒントを得ているが、ほとんどがコーエン兄弟の創作。彼らによると、このテロップは”映画を普通のスリラーとして見ないように”という心の準備を、観客にさせるためのものだったという。
『ファーゴ』(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
会話のリズムも独特のユルさがある。現場検証中のマージと同僚との会話は、ここが殺人現場であることを忘れさせるほど、のんびりしたテンポ。日本の観客には少々わかりづらいが、キャラクターのミネソタ訛りも田舎町の空気感を醸し出す。ミネソタの観客の中には、このユーモアが理解できず、自分たちがバカにされていると感じた人もいたというが、もちろんミネソタで生まれ育ったコーエン兄弟に、そんな意図はない。マージの夫ノームを演じたジョン・キャロル・リンチをはじめ、出演者の多くはミネソタ出身。また、ジェリーの妻を演じたクリステン・ルドルードは、まさしくファーゴの生まれである。
ちなみに、撮影が行なわれた冬は、ミネソタ州は記録的な暖冬で、降雪量はおそろしく少なかった。そのため、コーエン兄弟は雪景色を求めて、ノースダコタにまでロケーションを広げたという。