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演技も物語も動き続ける『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』が導く、虚空の「二人芝居」

(c)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.

演技も物語も動き続ける『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』が導く、虚空の「二人芝居」

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限定空間が、エディとフェリシティの安定感を浮き彫りに



 『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』は、1862年の英国ロンドンが舞台。まだ天気が予報できなかった時代だ。気象のメカニズムを知りたいと願う気象学者のジェームズ・グレーシャー(エディ・レッドメイン)は、事故で夫を亡くし、トラウマを抱えるパイロットのアメリア・レン(フェリシティ・ジョーンズ)を説得。コンビを組んだ2人は、ガス気球で大空へと飛び立っていく。だがそれは、死と隣り合わせの危険極まりない旅だった。


 アメリアは架空のキャラクターだが、ジェームズは実在の人物。本作では実際のフライトを参考に入念な時代考証が行われ、リアルな作品作りを目指したという。後述するが、エディとフェリシティの演技合戦もさることながら、スクリーン映えする空中の一大スペクタクルは圧巻だ。雲を突き抜け、画面いっぱいに青空が広がった際の感慨――映画ニュースメディア「IndieWire」が「『ゼロ・グラビティ』に続く劇場体感型アドベンチャー」と評したとおりの、驚嘆すべき映像体験が待ち受けている(ちなみに、本作の音楽も『ゼロ・グラビティ』(13)のスティーヴン・プライスが手掛けている)。



『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(c)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.


 本作の中身に入る前に、スタッフとスタジオにも目を向けたい。監督は『ワイルド・ローズ』(18)などを手掛けたトム・ハーパー、共同脚本は『ワンダー 君は太陽』(17)のジャック・ソーン。撮影監督は『フッド ザ・ビギニング』(18)のジョージ・スティールと、手堅いメンバーが並んだ。スタジオは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)、『ビューティフル・デイ』(18)、『サスペリア』(18)、『COLD WAR あの歌、2つの心』(18)など力作を連発してきたアマゾン・スタジオが務める。


 ちなみにエディとフェリシティは、共に才色兼備の俳優たち。エディはイートン校からケンブリッジ大学へと進み、フェリシティはオックスフォード大学出身。どちらも超が付くほどの高学歴で、学生時代から演劇をみっちりと勉強していた。古典がベースにある2人のため、時代劇はお手の物。舞台で磨き上げた表現力と空間掌握能力は、「気球の中」という演技力がむき出しになってしまう状況設定にも、めっぽう強い。



『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(c)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.


 さらに、エディは「人付き合いが苦手な研究者」、フェリシティは「自立した強い女性」と得意分野の役どころを担っている。緩急の利いた阿吽の呼吸の演技で、ジェームズとアメリアの関係性のグラデーションにもまるでブレがない。物語の中では気球という不安定な乗り物がスリルを生み出すが、その中にいる2人の安定感はまさに「雲の上」の領域だ。ジェームズとアメリアが激しく衝突する瞬間さえも、一流のジャズ奏者のセッションのように「計算された生っぽさ」で魅せる。「一見の価値あり」と口で言ってしまうのは簡単だが、本作のエディとフェリシティの躍進は、きっちりとした根拠の上に成り立っており、いわば「当然の結果」だろう。



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