2020.01.20
『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』あらすじ
「フランス人は7000mまで昇っています。今日、私たちはそれを超えて、高度記録を我が国に取り戻しましょう!」と、気球操縦士のアメリア・レン(フェリシティ・ジョーンズ)は、1万人の観客を前に高らかに宣言する。1862年、ロンドン。ハデなアクションで人々を楽しませようとする彼女を、迷惑そうに見ているのがジェームズ・グレーシャー(エディ・レッドメイン)、この大いなる旅を企画した気象学者だ。
2年前、ジェームズはロンドンの王立協会で、十分なデータを集めれば気象を予測して「大勢の命を救える」から、調査飛行の資金を援助してほしいと訴えたが、天気の予想など占い師のすることだと笑われてしまう。アメリアの飛行ショーとして観客から入場料を徴収することを条件に、ようやくスポンサーが現れたのだ。立場も目的も違う二人の息は全く合わないまま、気球は空へと飛び立っていく。だが、高度1645mを超えた頃に気球が雲の中へ入り、助け合わなければならない時が来る。気圧の急激な変化で激しい嵐に巻き込まれ、アメリアがバスケットの外へと放り出されたのだ。何とかロープにしがみついたアメリアを、決死の覚悟で引き上げるジェームズ。ようやく雲を抜けた二人は、目に沁みるほど青い大空に心を動かされる。それからも、光輪が現れ、高度5220mでは黄色い蝶の一群が舞い飛ぶなど、初めて目にする美しい自然の姿を共に楽しむのだった。
高度7000mで遂に世界記録を更新した二人は、「来られて感謝する」「君の気球のお陰だ」と万感の想いを込めて握手を交わす。だが、7280mに達したところで、再び意見が分かれた。気温がマイナスまで下がったことから、アメリアは降下を提案するが、ジェームズは観測記録が「命より重要だ」と主張する。アメリアはバカにした学者たちを見返したいだけではないかと疑うが、純粋に研究に身を捧げるジェームズの本心を知って折れるのだった。
アメリアにも2年前、人生を変える出来事があった。気球で飛行中に同乗していた夫のピエール(ヴァンサン・ペレーズ)が亡くなったのだ。それからというもの、気球に乗るのはもちろん、生きる気力さえ失っていた。ジェームズから頼みこまれて一度は引き受けた操縦も、夫のことを想い「もう二度と乗りたくない」と断った。気持ちを翻したのは、ジェームズの親友のトルー(ヒメーシュ・パテル)から、世界を変える機会が誰にでもあるわけではないと説得されたからだ。高度8070m、気温マイナス15度、気圧で気球の布が裂けそうになり、酸素の低下から脳に影響が出始め、ジェームズは鼻から出血する。降下を決意するアメリアにジェームズは、「ピエールが無茶をした話は有名だ」と、彼女の夫の話を持ち出して止めようとする。その時、アメリアはピエールの死の真相を打ち明けるのだった。
ようやくジェームズも降下に同意するが、ガスの放出弁が凍って開かないという、最悪の危機を迎える。低酸素症で気を失うジェームズ、自力で弁を開けるために気球をよじ上るアメリア。高度10970m……未知の世界が始まろうとしていた──。
Index
再共演のステージにふさわしい、完全なる「二人芝居」
たった数時間の冒険。ただただ、気球で空へと昇るだけ。
だが2人はこの旅に、過去も今も未来も、人生の全てをかけた。
天命に抗い、切り拓く不屈の意志。蒼く清く、澄み切った「生」のドラマ。
夢の共演、は映画における大いなるロマンだ。近作であれば『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)のレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの顔合わせは、映画ファンを沸かせた。しかも2人ともアカデミー賞に主演男優賞と助演男優賞でノミネートされ、人気的にも評価的にも昨年の「顔」の映画と相成った。『フォードvsフェラーリ』(19)では、マット・デイモンとクリスチャン・ベールが初共演。『マリッジ・ストーリー』(19)では、アダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンが夫婦役を務めた。
スター同士が個性を出し合い、その映画だけの化学変化が生まれる――その瞬間を見届けられるのは眼福だが、別の役どころで相対する「再共演」もまた、味わい深い。オスカー関連作でいえば、『アイリッシュマン』(19)がそれにあたる。クリストファー・ノーラン監督が『ダークナイト』(08)の参考にしたという傑作『ヒート』(95)のロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが正真正銘同じ画面に映る興奮と感慨――映画好きだけに許された贅沢な悦びといえよう。
『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』予告
そしてまた、ここにビッグな「再共演」が実現した。アカデミー賞に輝く『博士と彼女のセオリー』(14)のエディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが、再び「空」に想いを馳せる『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(19)だ。『博士と彼女のセオリー』を観た者ならば皆、快哉を叫んでしまうのではないだろうか。それほどまでに同作で2人が見せた相性は出色で、アカデミー賞にダブルノミネート(レッドメインは受賞)という結果も物語っている。
『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』は『博士と彼女のセオリー』と同じく実話ベースで、エディとフェリシティがナイーブな男性と芯の強い女性をそれぞれ演じ、エディの役どころは研究者、2人に訪れる試練、そして先ほど述べたように「空(宇宙)」がテーマと、ファンには嬉しい符合が満載。
『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』(c)2019 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
さらに注目すべきは、今回は全くの「二人芝居」という点だ。本作は気球で空を目指す男女を描いた作品であり、ひとたび空に出れば、回想シーン以外は完全な二人芝居。再共演作の面白さは、前作から年月を経て経験を積んだ両者が、円熟味を増した演技をかけ合わせる部分にある。そういった意味で、主要な登場人物が2人きりで進む本作は、実に適した舞台を用意したといえよう。
『リリーのすべて』(15)や『ファンタスティック・ビースト』シリーズを経験したエディと、『怪物はささやく』(16)や『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)で存在感を発揮したフェリシティ。2人の成長の証が、本作には十二分に詰まっている。