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『ロマンスドール』虚偽を脱いで、愛の形をふたりで創る――セックスという“受容”の温もり

(c)2019「ロマンスドール」製作委員会 配給:KADOKAWA

『ロマンスドール』虚偽を脱いで、愛の形をふたりで創る――セックスという“受容”の温もり

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日常の延長にある、セックスという「受容」



 『ロマンスドール』の“主役”ともいえる、セックス。この行為が背負うものとは、何だろうか? それは恐らく、コミュニケーションだ。日常を共に過ごし、「生活」を営む夫婦にとって、セックスはきっと、最も身近な非日常。2人で作った「物語」に入り込み、ある種の「役」を演じる。会話が心のディスカッションなら、セックスとは身体の対話であり、関係性を正常に保つためのロールプレイングゲームでもある。


 本作のラブシーンは一般的な夫婦のラブストーリーに比べて全体的に多いのだが、「官能的」とはまるで趣が違う。本作のセックスは、嘘と秘密を纏って真正面から向き合わなかった哲雄と園子が、互いをさらけ出す行為であり、文字通りお互いの内に深く入り込んでいく受容と許しの儀式でもある。



『ロマンスドール』(c)2019「ロマンスドール」製作委員会 配給:KADOKAWA


 そして物語が進むにつれて、2人のセックスは対話以上の意味を帯びていく。セックスが持つ「愛」をさらに至高の領域へと進め、輝くほどにエモーショナルに飾り立てる。タイトル通り、とびきりの「ロマンス」を感じさせてくれるのだ。


 1つ、印象的なシーンがある。哲雄と園子は、セックスの最中に冗談を言って笑いあうのだ。この瞬間、「演じる」行為も儀式としての在り様も全てが消え、裸の2人がむき出しになる。これが格好つけた男女なら「ムードがぶち壊し」状態なのだが、哲雄と園子の場合はそうはならない。むしろ、抱えきれないほどの幸福を抱き、喜びがこぼれてまた笑ってしまう。


 小説家としても活躍しているという点でタナダ監督と共通項も多い、西川美和監督の『永い言い訳』(16)では、主人公が不倫相手とのセックス中に「馬鹿な顔」と言われる残酷なシーンがある。これは侮蔑と同時に、セックスが持っている馬鹿馬鹿しさを鋭く言い表した一言でもある。



『ロマンスドール』(c)2019「ロマンスドール」製作委員会 配給:KADOKAWA


 だが逆に、2人の絆が誰にも邪魔できないほどに完璧な純度まで到達していれば、この馬鹿馬鹿しさこそが愛おしさの証にもなる。『ロマンスドール』が描くのは、そんな愛の到達点だ。傷つけ合い、多くの後悔を味わった哲雄と園子だからこそ、できること。失敗の果てに見えた、本当の愛情。


 それは、日常の延長に、飾らない2人のままで肌を重ね合うこと。ダメなところも嫌いなところも、嘘も秘密も、全部丸ごと愛おしいから「夫婦」なのだ。さらけ出して、許し合って、笑って求め合う。ここまで切なく温かく、優しくて愛おしいセックスを、他に知らない。



文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema



作品情報を見る



『ロマンスドール』

2020年 1月24日(金)全国ロードショー

出演:高橋一生 蒼井優 浜野謙太 三浦透子 大倉孝ニ ピエール瀧 渡辺えり きたろう 

脚本・監督:タナダユキ

原作:タナダユキ「ロマンスドール」(角川文庫刊)

公式サイト:romancedoll.jp

(c)2019「ロマンスドール」製作委員会 配給:KADOKAWA

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