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『初恋』エンタメこそ映画の華――喜劇も暴力もタランティーノも詰め込んだ三池流・純愛活劇

(C)2020「初恋」製作委員会

『初恋』エンタメこそ映画の華――喜劇も暴力もタランティーノも詰め込んだ三池流・純愛活劇

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盟友タランティーノ監督の作品との愛しき符合



 本作の企画は、続編製作も決まったヒット作『孤狼の血』(18)のプロデューサー、紀伊宗之から始まった。「東映やくざ映画の復権」を掲げた同作の反響の高さを受け、紀伊は次なる作品を三池監督に任せようと決めたという。マスコミ用の資料で、紀伊は「Vシネ時代の破天荒な三池作品を、もう一度大きなスクリーンで観たいと思った」と語っており、「映画の企画はそもそもオリジナルであるべき。映画館で初めて出会う体験を提供することが映画の使命」と“原作もの”にしなかった理由を述べている。


 脚本には、三池監督の盟友で『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07)などで知られる中村雅を招集。会議の1週間後には第一稿が出来上がったというから恐れ入る。スタッフは三池組のベテランで固め、さらに『戦場のメリークリスマス』(83)やジム・ジャームッシュ監督の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)、トム・ヒドルストン主演作『ハイ・ライズ』(15)、三池監督とも『十三人の刺客』(10)など複数作品で組んだプロデューサー、ジェレミー・トーマスが加わった。


『十三人の刺客』予告


 キャストは、満場一致だったという窪田正孝、3,000人のオーディションを勝ち抜いた新星・小西桜子に加え、大森南朋、染谷将太、ベッキー、村上淳、塩見三省、内野聖陽といった実力派が集結。物語の舞台である新宿・歌舞伎町で実際に撮影を行い、リアルな空気感をすくい取っていった。


 余命わずかと告げられたプロボクサー・葛城レオ(窪田正孝)は、歌舞伎町でモニカ(小西桜子)という少女と運命的な出会いを果たす。父親に借金を背負わされ、ヤクザに囚われているというモニカを守るために、反射的に刑事の大伴(大森南朋)を殴ってしまったレオは、大伴と裏でつながっていた裏切り者のヤクザ、加瀬(染谷将太)や刑務所帰りの権藤(内野聖陽)、さらにはチャイニーズマフィアとの抗争に巻き込まれていく……。


 以上が、ざっくりとした『初恋』のあらすじだ。本作は「レオ」「モニカ」「ヤクザ」「警察(大伴)」「チャイニーズマフィア」といった複数の視点が入り乱れ、次第に収束していくという多層的な作りになっており、誰か1人が動くことで他のメンバーの運命に変動が生じていく。レオとモニカの逃避行的なラブストーリーを主軸に、裏切りのサスペンスとバイオレンス、さらにコメディがたっぷりと塗りたくられており、冒頭からエンタメ性がフルスロットルで駆け抜ける。隠し味にホラーが入っている点も重要だ。



『初恋』(C)2020「初恋」製作委員会


 あらすじだけを見ると、ちょっとややこしいストーリー構造に思えてしまうかもしれないが、基本的にはハリウッド的な「巻き込まれ型サスペンス」である。普通の人である主人公が、異常な事態に突っ込まれてヒーローになっていくタイプだ。


 『ダイ・ハード3』(95)でサミュエル・L・ジャクソンが演じた家電修理店の店主や、リアルタイムサスペンスの隠れた傑作『ニック・オブ・タイム』(95)でジョニー・デップが演じた会社員、トム・クルーズが殺し屋を演じた『コラテラル』(04)でジェイミー・フォックスが演じたタクシー運転手もそう。少し解釈を拡げれば、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)のレイや『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)のマイルズもこの系譜にあるといえる。


 ここに「追われる」「ラブストーリー」が絡むと、『トゥルー・ロマンス』(93)的なにおいが漂い始め、「裏切り」「コメディ」「バイオレンス」が加わるとさらにタランティーノ色が強まっていく。本作は三池監督らしい作品であると同時に、タランティーノ好きのツボを押さえた内容にもなっている。


『トゥルー・ロマンス』予告


 タランティーノ作品の面白さはカルトとエンタメの奇跡的なバランス感覚が1つ挙げられるが、『初恋』も東洋のエッセンスやホラー的演出が多少増えたくらいで、観る者の印象は非常に近いはずだ。『初恋』でベッキーが演じる復讐の鬼ジュリは、そのまま『キル・ビル』にいてもおかしくないくらいマッチしている。そもそも三池監督とタランティーノ監督は互いに影響を受け合った盟友だから親和性が高いのは当然ともいえるが、ここまで両者の“感覚”が近づいた作品は初だろう。


 そう考えると、複数の物語のレイヤーが収束していく流れもタランティーノ監督の得意技といえ、三池チームによるタランティーノへのラブレターにも思えてくる。もちろんオリジナリティをこれでもかと搭載しているのだが、それ以上に“愛”がにじんでくるのだ。



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