人生の大きな絶望が、この映画を生むきっかけとなった
ずっと「構想中」状態だった企画は、ある日、唐突に転機を迎える。それはターセムが生涯を共にしたいと願っていた恋人が自分の元を離れていったことだった。恋に破れて傷心するなんて、そんな青臭い、と感じるかもしれないが、実際のところターセムの憔悴ぶりは周りが見てられないほどひどいものだったとか。この様子に実弟もたまりかねて「ずっと温めていたあの映画を作ろう」と提案してくれたという。
頭の中に広がるイマジネーションに過ぎなかったプロジェクトは、こうして具現化へ向けて大きな舵を切り始めた。ただしここからも決して順調に進んでいったわけではない。
まずは主役の女の子をキャスティングしないことには何も始まらない。ターセムはCM撮影で世界各国を飛び回るごとに、現地の小学校にスタッフを派遣して理想の少女がいないか探させた。何年もかかってようやく見つけたのが、一人のルーマニアの少女だった。
『落下の王国』(c)Photofest / Getty Images
彼女は英語がうまく話せない。お人形さんのように可愛らしいわけでもない、ぽっちゃり系のお嬢さん。でも相手の言葉に懸命に耳を傾け、こちらが思ってもみないとびきりの反応を返す。一方、相手役にはリー・ペイスが選ばれた。のちに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)のロナン役で知名度MAXに達する彼だが、この頃はほぼ無名に等しかった。こうしてキャスティングされた二人の巻き起こす化学反応こそ、本作の核となっていくのである。