1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 落下の王国
  4. 『落下の王国』インタラクティブな製作過程がもたらしたもの
『落下の王国』インタラクティブな製作過程がもたらしたもの

(c)Photofest / Getty Images

『落下の王国』インタラクティブな製作過程がもたらしたもの

PAGES


インタラクティブに構築されていくストーリー



 本作でターセムが採った方法論はとてもユニークなものだ。あらかじめがっちりと内容を固めるのではなく、その場の状況や相手の出方に応じて柔軟に中身を変える。そうやって有機的な関係性を構築していくことで、作品に予測不能の魅力が生まれていく。恋人との破局を経験した彼がもう一度、これらの「関係性」を大切にして映画を撮ろうとしたことは、今考えても非常に興味深い。


 その最たるものは、やはり主役の二人。病院内で出会う「寝たきりの映画スタントマン」と「腕を骨折した少女」のやり取りは基本ラインだけが決められ、後はアドリブによって織り成されていった。この少女の場合、もはや演技ではなく「彼女自身」と言ったほうがいいのかもしれないが。

 


『落下の王国』(c)Photofest / Getty Images


 ターセムは少女が役になりきれるように、できるだけ現実と同期した撮影環境を整えた。実際の病院を使い、出演シーンはすべて順撮り。さらに彼女は、共演するリー・ペイスについて「あの人は足に大きな怪我を負って、歩くことができないんだよ」と聞かされていた。彼女だけではない。実は現場にいるスタッフ全員がこの「フィクション」を共有して、誰もが完全に信じ込んでいた。


 純真無垢な少女が放つ突飛な行動によって“流れ”が変わる。ペイスの演技もそれに応じて変わる。周囲が混乱することもあれば、ふと宝物のような仕草やセリフ、表情、それからアイディアがこぼれ落ちることもあった。ターセムは現場のスタッフたちに「あの少女が繰り出すどんな些細なことも決して見逃さないように」と伝えていたそうだ。


 本作は、男が少女に「物語を語り聞かせる」ストーリーである。それは決して一方的な行為ではない。どんな場面で少女が目を輝かせ、はたまたどのタイミングでハッと息を飲むかによって、語り口や物語の内容も少なからぬ影響を受けるわけだから。本作はこういった双方向性によって「表現」が輝き出す瞬間を克明に写し取った映画とも言えるのである。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 落下の王国
  4. 『落下の王国』インタラクティブな製作過程がもたらしたもの