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『羊たちの沈黙』ジョディ・フォスターとジョナサン・デミが作り上げた、新たな女性像

(C)2014 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『羊たちの沈黙』ジョディ・フォスターとジョナサン・デミが作り上げた、新たな女性像

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女性の映画にこだわるジョナサン・デミ



 デミが特に興味を持ったのはヒロインの描写だったという。


 「僕自身は女性映画にすごく興味がある。かつてロジャー・コーマンが製作する映画作りに参加している頃からそうだった。女性の主人公が目立つ映画、女性が危機的な状況に立たされる映画、使命感を持った女性の映画。そういうテーマの映画に、監督としても、観客としてもすごくひかれてしまう」(前述のインタビューより)


 デミが監督としてデビューを果たしたのは74年の『女刑務所・白昼の暴動』だった。アメリカ映画界では“B級映画界の帝王”と呼ばれるロジャー・コーマン製作の女囚ものだった。不当な扱いを受ける女囚たちの連帯を描いた内容になっていて、アメリカではカルト的な人気を得た。


 続いてコーマンの下で撮ったのは、『クレイジー・ママ』(75、日本ではビデオとDVDのみ)。舞台は50年代で、こちらは住み慣れた土地を追われた女家族(祖母、母、娘)がギャングとなって放浪の旅を続ける。


『クレイジー・ママ』予告


 コーマンと組んだこうした作品から、早くも女性を主人公に好むデミの方向性がうかがえる。日本では劇場未公開が多い監督で、やはりビデオのみ公開となった『メルビンとハワード』(80)では庶民的でコミカルなヒロインを演じたメアリー・スティーンバージェンがアカデミー助演女優賞を獲得している。


 80年代中期の彼はオフビートで都会的なセンスのコメディで評価された。デミの最高傑作の1本、『サムシング・ワイルド』(86)はエリート・サラリーマンが自由奔放なナゾの女性に翻弄されるコメディで、後に『ワーキングガール』(88)でオスカー候補となるメラニー・グリフィスの才能を早くも開花させていた。


 この映画同様、デミのコメディセンスが最高にさえわたっていた『愛されちゃって、マフィア』(88、日本ではビデオとDVDのみ)では、その後、『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89)でオスカー候補となるミシェル・ファイファーのコミカルな魅力が全開。


『愛されちゃって、マフィア』予告


 また、21世紀に入ってからは、アン・ハザウェイがアウトサイダー的なヒロインを演じた『レイチェルの結婚』(08)でアカデミー賞の候補となり、『クライシス・オブ・アメリカ』(04)や『幸せをつかむ歌』(15)にはメリル・ストリープが出演。前者はゴールデン・グローブ賞の助演女優賞などの候補になっている。


 こうしてデミのキャリアを振り返ると、確かにデミが女性映画に興味を持っていて、女優の使い方がうまかったことが分かる。


 そして実は、クラリス役としてデミが最初に想定したのは、ミシェル・ファイファーだった。


 「いつも素晴らしい女優たちと組めたのは本当に幸運だった。ミシェル・ファイファーとは『愛されちゃって、マフィア』で本当に満足できる仕事ができたので、また、組みたいと思っていた。まだまだ、お互いの可能性をもっと深いレベルまでもっていけると思っていたからね」(“What Goes Around Comes Around:The Films of Jonathan Demme“マイケル・ブリス&クリスティーナ・バンクス著、南イリノイ大学出版局刊より)


 しかし、ファイファーは自分には強烈すぎる題材という理由でこの企画を断った。そこで浮上したのが、『告発の行方』(88)でアカデミー賞を受賞していたジョディ・フォスターだった。



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