Blade Runner: The Final Cut (c) 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『ブレードランナー』はフィルム・ノワールの夢を見るか?
『ブレードランナー』を作ったアラン・ラッドの息子
“フィルム・ノワール”にとって重要な人物のひとり、それは作家レイモンド・チャンドラーだろう。“フィルム・ノワール”の代表作であるハンフリー・ボガート主演の『三つ数えろ』や、ジェリー・ブラッカイマーの初プロデュース作品としても知られているロバート・ミッチャム主演の『さらば愛しき女よ』の原作者である。村上春樹は彼のファンであることを公言しているだけでなく、「ロング・グッドバイ」や「大いなる眠り」の翻訳も手掛けている。
チャンドラーは映画界との繋がりも深く、アルフレッド・ヒッチコック監督の『見知らぬ乗客』(51)や、ビリー・ワイルダー監督の『深夜の告白』(44)で脚本を担当。『深夜の告白』ではアカデミー脚本賞候補にもなっている。このレイモンド・チャンドラーが、ある俳優のために書いたオリジナル脚本がある。それが、アラン・ラッド主演の『青い戦慄』(46)。
アラン・ラッドといえば西部劇『シェーン』(53)における早撃ちが有名だが、実は1940年代にダシール・ハメットの小説を映画化した『ガラスの鍵』(42)などに主演する“フィルム・ノワール”のスターだったという経緯がある(ちなみにチャンドラーとは、『愛のあけぼの』(44)でも組んでいる)。そして、アラン・ラッドと『ブレードランナー』との間には間接的な関係があるのだ。
『ブレードランナー』の本編が始まる前、まず<THE LADD COMPANY>という映画製作会社のロゴが映し出される。1979年に設立された<THE LADD COMPANY>創始者のひとりがアラン・ラッドJr.、つまり、アラン・ラッドの息子なのだ。アラン・ラッドJr.は、20世紀フォックスやユナイテッド・アーティスツ、MGMなどの社長を歴任し、『スター・ウォーズ』(77)や『エイリアン』(79)の製作にGOサインを出した人物。
『ブレードランナー』Blade Runner: The Final Cut (c) 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
実は、アラン・ラッドも1953年に<JAGUAR PRODUCTION>という映画製作会社を興している。当時はまだハリウッドのスタジオシステムが全盛の時代。残念ながら会社は短命に終わっているが、この時、アラン・ラッドが映画ビジネスの参考にした人物のひとりが、ロバート・ミッチャムを映画界へ誘った、あのウィリアム・ボイドだった。
ボイドは製作が中断してしまった「ホパロング・キャシディ」シリーズの版権と映画化権を自ら買取り、シリーズを継続させるだけでなく、テレビ受像機の一般家庭への普及を見込んで、過去作品をテレビ向けに再編集。同時に、関連商品などを発売する“マーチャダイジング”を行なって成功を収めていたからだ。ウィリアム・ボイドの行動は、当時の感覚だと映画ビジネスにおいてとても先駆的だったのである。
映画の世界は奇遇な縁と運で繋がっている。現実の世界が、映画の舞台となる2019年に追いついても、『ブレードランナー』という作品が映画ファンを魅了し続ける理由。それは、ハリウッドにおける映画製作のあり方や映画のジャンルを、過去に倣い、継承しているからなのだ。
【出典】
「メイキング・オブ・ブレードランナー」(ソニーマガジンズ)
「ブレードランナー 証言録」(インチャーナショナル新書)
「現代映画用語辞典」(キネマ旬報社)
文: 松崎健夫
映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。
『ブレードランナー ファイナル・カット』
製作:1982 年・2007年
原題:BLADE RUNNER: THE FINAL CUT
本編時間:117分
Blade Runner: The Final Cut (c) 2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『ブレードランナー ファイナル・カット』
<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組)¥5,990+税
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