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『ラ・ラ・ランド』甘い愛、苦い現実、取捨と選択――儚き「夢追い人の彷徨」

『ラ・ラ・ランド』甘い愛、苦い現実、取捨と選択――儚き「夢追い人の彷徨」

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「多幸感」の裏に潜む、残酷な「現実」



 ではここで、改めて『ラ・ラ・ランド』のあらすじを振り返ろう。舞台はロサンゼルス。ハリウッドの撮影所にあるカフェでアルバイトをしながら、ブレイクを目指す女優の卵ミア(ストーン)は、ふとしたことからジャズピアニストのセブ(ゴズリング)と親しくなる。彼もまた、本当にやりたい音楽をできず、フラストレーションが溜まる日々を送っていた。表現者として時にぶつかり、けれども夢追い人として互いを理解し合う2人は、次第に認め合うように。やがて、その感情は愛へと変わっていく。


 その年のアカデミー賞候補作品は『ムーンライト』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『メッセージ』『ドリーム』『LION/ライオン 25年目のただいま』と驚くほど傑作ぞろいだが、本作は中でも圧倒的に華やかで、色彩豊かかつ明るいトーンが特徴だ。


 『グレイテスト・ショーマン』(17)にも携わったベンジ・パセクとジャスティン・ポールが歌詞を、チャゼル監督の盟友ジャスティン・ハーウィッツが作曲を手掛けた名ナンバーの数々はロマンチックに心をとらえ、グリフィス天文台などLAの名所をカラフルに切り取った映像には目を奪われるだろう。日本でも多くの若者が「洋画にハマるきっかけ」として本作を挙げており、洋画の人気投票をすれば必ずといっていいほど上位にランクイン。ビギナーにも親切な、映画らしい「多幸感」に満ちている。




 ただ、『ラ・ラ・ランド』の真髄はそれだけに留まらない。今挙げたような「楽しさ」をきっちりとカバーしつつ、掘り下げて観ていくほど夢追い人の苦しみや残酷さが引き立っていくという「スイートにコーティングしたビターな味付け」が絶妙なのだ。特にミアやセブと近い境遇にあるクリエイター層には、かなり堪えるストーリーなのではないか。


 本作にはゴズリングとストーンの下積み時代の経験が多く活かされており、オーディションの最中に審査員が別の電話に出る屈辱的なシーンは、ゴズリングから出たアイデア。15歳で女優を目指し、母親とハリウッドに移住したというストーンの境遇は、そのままミアに重なる。ミアとセブが浸される不遇は決して絵空事ではなく、芸で身を立てようとする者全てがぶつかるリアルな試練だ。


 コメディアンであれば『ジョーカー』(19)や、影響を与えた『キング・オブ・コメディ』(82)、演劇人であれば又吉直樹の小説を映画化した『劇場』(20)、ミュージシャンであれば『ソラニン』(10)、アーティストであればマンガ大賞2020に輝いた「ブルーピリオド」などとも共通する、何者かになろうともがく人々の姿を細やかに描写している。




 さらに、『理由なき反抗』(55)へのオマージュや『雨に唄えば』(52)、『シェルブールの雨傘』(64)など往年のミュージカル映画との符合もあり、“玄人”の映画ファンからも支持されるポイントが多数。チャゼル監督はスタッフ・キャストを集め、これらの映画の上映会を定期的に行ってイメージを共有したという。こだわりのフィルム撮影や、『セッション』にも通じるワンカット技法など、映像的にも過去の名作に倣っている。


 また、本作と表裏一体の関係にあるのが、同じLAを舞台に業界の闇や都市伝説をサイケに描いた『アンダー・ザ・シルバーレイク』(18)。グリフィス天文台の描かれ方の違いなど、2作を比較すると興味深い視座を得られるだろう(グリフィス天文台は、前出の『理由なき反抗』が“元ネタ”でもある)。


 こういった、いわゆる映画史的な“縦軸”の楽しみ方もできるのが、本作の奥の深さだ。



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