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『ツイン・ピークス (TVシリーズ)』デヴィッド・リンチの<赤>と 『ウエスト・サイド物語』の<赤>

(c)Photofest / Getty Images

『ツイン・ピークス (TVシリーズ)』デヴィッド・リンチの<赤>と 『ウエスト・サイド物語』の<赤>

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デヴィッド・リンチの<赤>



 「ツイン・ピークス」の“赤い部屋”=“RED ROOM”が象徴するように、デヴィッド・リンチ作品の映像イメージは、<暖色>である。人は色によっても、暑さや寒さなどの温度を感じるもの。例えばそれは、お湯(赤)や水(青)の表示が、世界共通であることからも裏付けられる。暖色(火)と寒色(海)は自然に根ざしたものでもあり、多くの人にとって<赤>は「暖かさを感じる色」として認識されているのだ。


 「ツイン・ピークス」でも<赤>=<火>は象徴的に登場し、 「FIRE WALK WITH ME」=「火よ、我と共に歩め」の名台詞にも言及されている。ちなみにマッチの<火>は、 『ワイルド・アット・ハート』や『ブルーベルベット』でも用いられているモチーフだ。



『ツイン・ピークス (TVシリーズ)』(c)Photofest / Getty Images


 「ツイン・ピークス」には、赤を基調とした色彩設定が施されている。映画における色彩は、監督や撮影監督などの意図が反映される。それは、カメラ、フィルム、レンズ、フィルター、照明、美術などを駆使することによって総合的な色彩を設計しなければ、映像の中で意図する色彩を実践できないからだ。赤を基調とした<暖色>と青を基調とした<寒色>。映画監督の中には暖色監督と寒色監督とが存在するが、そういう意味でデヴィッド・リンチは、疑いなく暖色監督だと言えるだろう。


 念のため、「ツイン・ピークス」冒頭におけるローラ・パーマーの登場場面は寒色だ。これは、作品全体の基調となる暖色とは異なる色彩(この場合は寒色)を施すことで対比を生み、“世界一美しい死体”と称されたローラの姿を作中で際立たせているのだ。



『ツイン・ピークス (TVシリーズ)』(c)Photofest / Getty Images


 また<赤>の表現は、当時のテレビ界においてある種の挑戦だった。テレビ放送における映像の輝度信号は、ベクトルスコープ内に収まらないような極端な輝度の色彩を禁止している。そのため、“赤”の要素が映像全体を支配することや、極端な“赤”をテレビで表現することは、映画と同じようには実践できなかったのだ。「ツイン・ピークス」が<暖色>を基調にしていることは、つまり、<赤>への強いこだわりを窺わせる。ではなぜ、<赤>なのか?


 『ワイルド・アット・ハート』におけるローラ・ダーンの衣裳の色、『ブルーベルベット』でイザベラ・ロッセリーニが歌うステージの色彩、『ストレイト・ストーリー』(99)で弟と再会する時に着ている服の色、『マルホランド・ドライブ』(01)のベッドシーツの色。個人的な解釈として、リンチ作品における<赤>は、常に「愛」や「愛情」の象徴ではないかと思わせるフシがあるのだ。それは、愛情の対象となる相手に<暖色>=<赤>のイメージを被せているからである。つまり、「ツイン・ピークス」における<赤>は惨劇や血の<赤>ではなく、何らかの「愛」や「愛情」に対するメタファーなのだと思わせるのだ。


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