2020.04.16
『ウエスト・サイド物語』の<赤>
実は『ウエスト・サイド物語』にも、<赤>は意図的に使用されている。例えば、ダンス場面に切り替わる瞬間の色彩や、ダンス場面全体を覆う色彩。「ドラマ部分とダンス部分」=「現実と虚構」をつなぐものとして<赤>が用いられているのだ。さらに、この映画でアカデミー衣装デザイン賞に輝いたアイリーン・シャラフは、ジェット団とシャーク団という対立するグループにテーマカラーを設け、「赤と青に分けることで二つのグループに対する差別化を図った」とも述懐している。
『ウエスト・サイド物語』プロローグ
この映画でリチャード・ベイマーが演じたトニーは、敵対するシャーク団のリーダーの妹であるマリアに恋をする。シャーク団のテーマカラーは赤や紫が基調。一方、トニーを演じたベイマーやジェット団のリーダーを演じたラス・タンブリンは、テーマカラーが青や黄を基調としたジェット団の側。映画のラストでトニーは、赤い衣装を纏った、愛するマリアの腕の中で絶命するのだ。
「ツイン・ピークス」における<赤>が、<愛>や<愛情>のメタファーであるのと同じように、トニーは<赤>=<暖色>の側にいるマリアに魅せられてゆく。つまり、『ウエスト・サイド物語』で<赤>に魅せられる若者を演じたリチャード・ベイマーが、<暖色>=<赤>を基調にし、<ダンス>の要素も見出せる「ツイン・ピークス」にキャスティングされたことは、必然だったのかも知れない。
【出典】
The New York Times
https://www.nytimes.com/2018/06/13/arts/television/david-lynch-room-to-dream.html
文:松崎健夫
映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。
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