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『カンバセーション…盗聴…』コッポラが1974年に描いた作品が持つ、現代社会への鋭い警鐘とは

(c)Photofest / Getty Images

『カンバセーション…盗聴…』コッポラが1974年に描いた作品が持つ、現代社会への鋭い警鐘とは

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ふたつの作品からの影響



 コッポラは本作が主にふたつの作品から多大な影響を受けたことを公言している。ひとつは、ミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』(66)であり、彼は「大好きな映画を自分なりに撮り直してみたかった」とすら語っている。『欲望』で偶然撮られた写真のように、人混みの中から傍受したこのテープが物語の鍵となり、幾度となくそのイメージが反復されていく中で、少しずつ核心に近づいていくのだ。


 『欲望』と言えば、コッポラと同世代の監督であるブライアン・デ・パルマの『ミッドナイトクロス』(81)のネタ元でもあるが、1974年の『カンバセーション』公開時にデ・パルマはコッポラへインタビューを行っている。


 デ・パルマは『ミッドナイトクロス』が『カンバセーション』へのトリビュートであることを認めているが、そのふたりの会話の中でコッポラが『欲望』がインスピレーションとなったことを明かしていることを考えれば、デ・パルマがその時に何かしらのヒントを得たとも想像できるかもしれない。


『ミッドナイトクロス』予告


 あるいは『ミッドナイトクロス』は先立って起こった1972年のウォーターゲート事件からも触発を受けているが、本作はそれと並行して似た事象を取り上げていた偶然も興味深い。まさにこの映画の撮影中にウォーターゲート事件が白日の元に晒されたのである。


 「あの時は本当にゾッとしたよ。私たちは政府のことなど何も知らずにこんな作品を作っていたんだ。あるいは無意識に予想していたのだろうか。盗聴のプロなら難しくない。とは言え、新聞の一面でそれを見るのは妙な気分だった。私たちが描いている事件も本当に起こってしまうような気がした」とコッポラは当時を振り返っている。


 もうひとつ本作にインスパイアを与えた作品が、ヘルマン・ヘッセの小説「荒野のおおかみ」(27)である。主人公の名前ハリーは、「荒野のおおかみ」から取られたものであり、それと同様に孤独な人間の内面を掘り下げることを企図していたのだ。


 「プロの録音技術者である彼は、自分の周りに壁をめぐらせそれを守ることで、心に触れようとするものを避けてきた。この冷たく閉ざされた世界に恋人たちのイメージが忍び込んでくる。自ら録音した会話の繰り返しが、乾き切った魂に染み入り、彼を支配していく」とコッポラは説明している。アルフレッド・ヒッチコックやテネシー・ウィリアムズなども含め、コッポラはこの作品で自身の好きな映画や本の様々な要素を融合させ、独自の表現へと昇華させている。



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