アメリカのヤバい司法制度を描いた『ミッドナイト・ラン』
ジョージ・ギャロによって書かれた脚本は、緻密で、繊細で、ユーモアのセンスも抜群。凸凹コンビによるバディ・ムービーでありながら、アメリカを横断するロードムービーでもあり、丁々発止の会話劇が楽しめるコメディドラマでもあり、血湧き肉躍るアクション映画でもある。ウケる要素をまんべんなく盛り込んだ、極上のシナリオに仕上がっていた。
特に秀逸だったのは、日本ではあまり馴染みのない「保釈保証業者」に着目したこと。アメリカではあまりにも犯罪数が多いために、留置所がすぐに犯罪人でいっぱいになってしまう。それを防ぐために保証金を納付させて、どんどん保釈していくのだが、中には保釈金が払えない犯罪人もいる。そこで登場するのが、保釈金専門で貸付を行う保釈保証業者なのだ。
『ミッドナイト・ラン』(C) 1988 Universal Studios. All Rights Reserved.
しかし、期日までに保釈金を支払わないまま犯罪人がトンズラしてしまうと、業者はまるまる大損をしてしまう。そこで彼らは犯罪者を連れ戻すために、“賞金稼ぎ”と呼ばれるプロを雇うのである。この映画、「保釈金を支払わせるために、金貸屋が悪者を追いかけまわす」という、アメリカのヤバすぎる司法制度を描いているのだ。
このシナリオに興味を示した一人の俳優がいた。名優ロバート・デ・ニーロだ。彼は『アンタッチャブル』(87)でアル・カポネ役を重厚感たっぷりに演じたあと、「今度はもう少し軽い役をやってみたい」と思い、ペニー・マーシャル監督の『ビッグ』(88)への出演を熱望した。ひょんなことから、12歳の少年が成人男性に姿を変えてしまうというファンタジックなコメディ映画だったが、結局主役の座はトム・ハンクスが手中におさめることになる(今考えても、このキャスティングは大正解だったのだが)。そこでデ・ニーロが次に目をつけたのが、『ミッドナイト・ラン』だったのだ。