2020.05.08
当初は別の有名女優で企画が進められていた?
本作は、90年代初頭にウーピー・ゴールドバーグが持っていた発信力の強さも相まって、低予算ながらも世界中でロングランヒットを遂げた。おそらく彼女の長年におよぶキャリアの中で、この映画を超える当たり役は他に存在しないはずだ。
さぞや製作時も「ウーピーありき」で事が進んだのだろうと推測していたのだが、調べてみるとこれが全く違った。最初の発案者はポール・ラドニックという若き脚本家。ふとしたタイミングに「殺しを目撃したナイトクラブのシンガーが修道院に匿われる」というあらすじを思いつき、これをプロデューサーのスコット・ルーディンに提案したところ、「いいね!」と好感触。
『天使にラブ・ソングを…』(c)Photofest / Getty Images
体内から溢れ出る個性を奥ゆかしい法衣で隠そうとする主人公には、当時人気の絶頂にあり、歌から踊りまで何でもこなせるベット・ミドラーこそが相応しいという結論に達する。
そうなると話は早い。すぐさま映画製作に必要な面々が顔を合わせ、ラドニックが執筆した2ページほどの概要をめぐって意見交換を交わす段階までたどり着いた。その後、ラドニックは本格的なリサーチも兼ねて、コネクティカット州のとある修道院へ潜入取材を試みることに。
ここではかつてエルヴィス・プレスリーとも共演したドロレス・ハートという女優が尼僧となって暮らしているとのこと。おそらくラドニックの中には、華やかなエンタメ業界から一転して「祈りと奉仕の世界」へと身を投じた人物を、脚本作りの参考にしたいとの思惑があったのだろう。
結局、お目当ての元女優には会えずじまいだったようだが、それでも彼が接した生の空間、生の人々が、作品に大きなインスピレーションをもたらしたことは明らかだ。