2020.06.05
始まりは5人の容疑者が一列に並ぶイメージから
そもそものアイディアは、漠然としたイメージでしかなかった。ある日クリストファー・マッカリーは、『ユージュアル・サスペクツ』(常連の容疑者)というコラムを読んで、「これが映画のタイトルだったら超クール!」と勝手に妄想し、「ポスターにするのなら、5人の容疑者が一列に並んでいる絵がいいだろうな」とアレコレ想像を膨らませる。マッカリーはそのアイディア(この時点ではとてもアイディアと呼べる代物ではないのだが)を何の気なしにブライアン・シンガーに伝えていた。
『パブリック・アクセス』で注目を浴びていたブライアン・シンガーは、次作を数百万ドル規模で支援するという投資家からの話もあり、新しいプロジェクトのネタ探しに必死。シンガーはクリストファー・マッカリーに、『ユージュアル・サスペクツ』のアイディアを具体的にスクリプトへ落とし込むことはできないか?と相談する。
『ユージュアル・サスペクツ』予告
思案を重ねていたクリストファー・マッカリーはふと、探偵事務所で働いていたことを思い出す。彼のいたオフィスには掲示板があって、人の名前や地名、事件に関する情報が書かれていた。そこにヒントはないだろうか?ストーリーを必死に考えるうちに、妙案を思いつく。まさに今の自分のように、部屋にある情報を頼りにして、嘘の話を作り上げてしまう男の話にすればいいのではないか!?
それは天啓のような閃きだった。クリストファー・マッカリーは5か月にわたってドラフトを9回書き直し、『ユージュアル・サスペクツ』の脚本を完成させる。現在と回想シーンをカットバックさせつつ、実はその回想がヴァーバルこと“伝説的ギャング”カイザー・ソゼ(ケヴィン・スペイシー)の作り話だった、というスーパー・トリッキーな構成。
後年ブライアン・シンガーは、この映画を「『深夜の告白』(44)と『羅生門』(50)が出会ったような作品」と語っている。「改めて見直したときに、最初は気づかなかったことにたくさん気づかされる映画」を目指したのだ。では、クリストファー・マッカリーはどんな仕掛けを施したのか?具体的に見ていこう。