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『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』抽象的で観念的な“愛”をめぐる冒険

『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』抽象的で観念的な“愛”をめぐる冒険

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16年ぶりに映画界に舞い戻ってきた監督アリス・ウー



 監督を務めたアリス・ウーのキャリアは、一風変わっている。1970年にカリフォルニアのサンノゼで生まれた彼女は、台湾からの移民である両親の元で育てられた。16歳でマサチューセッツ工科大学に入学し、その後スタンフォード大学に編入。コンピューターサイエンスの博士号を取得し、マイクロソフトのソフトウェアエンジニアとして働き始めたというから、完全なリケジョだ。


 マイクロソフトで働くかたわら、文才にも恵まれていたアリス・ウーは、突然小説を書き始める。書き進めていくうちに「映画の脚本になりそう」と直感した彼女は、ワシントン大学の脚本クラスで作劇術をイチから勉強し、やがてオリジナル長編映画の脚本を書き上げる。


 映画こそが自分の天職であると確信した彼女は、堅実なキャリアを投げ打ってニューヨークに移り住み、2004年に『素顔の私を見つめて…』で監督デビュー。レズビアンであることをひた隠しにして生きてきた娘と、若い男性との間に子供を身ごもってしまった母親が、厳格な中国人コミュニティとの軋轢の中で、人生の意味を見出していくヒューマンドラマだった。




 しかし、この1作で彼女は突然映画界から姿を消してしまう。病気になった母親の介護のために、ニューヨークの家を畳んでサンフランシスコに戻ってしまったのだ。


 「当時私は39歳でした。20代はコンピューター・サイエンティストになること、30代はこの映画を制作すること。そして40代は家族の面倒を見ることだと思ったのです」(VARIETY記事インタビューより抜粋)


 やがて時が過ぎ、母親の容体も安定してきた頃、アリス・ウーは再び映画界に戻ることを決断。自分自身に喝を入れるため、友人に1000ドルの小切手を預け、5週間以内に脚本ができなかった場合は、NRA(全米ライフル協会)に郵送してもらうように頼みこんだのだ(彼女自身は銃規制派)。


 5週間の格闘の末に出来上がったシナリオが、『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』。配給権をNetflixが獲得し、アリス・ウーは久々にメガホンをとる機会を得る。『素顔の私を見つめて…』以来、なんと16年ぶりの新作。出来上がった作品は、長年のブランクを感じさせるどころか、十数年の想いが凝縮されたマスターピースに仕上がっていた。



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