2020.06.10
“最もパーソナルなことが、最もクリエイティブなこと”
実はこの映画、元々は20代のレズビアン女性とストレート男性が、愛について理解しようとする物語だった。しかし、アリス・ウーはたちまち執筆につまずいてしまう。理由は簡単。彼女自身が、愛についての答えを持ち合わせていなかったからだ。だったらいっそのこと、愛の本質を探し求めてのたうち回り、七転八倒する、ティーンエイジャーたちの物語にすればいいのではないか?愛に答えなんかないのだから。
それは、アリス・ウー自身のパーソナルな体験に基づいている。レズビアンをカミングアウトしている彼女には、ストレートの白人男性の親友がいた。だがその親友の彼にガールフレンドができると、彼女は二人の仲の良さを妬んだ。アリス・ウーの言葉を借りれば、親友との友情は「ゆっくりと、言いようもなく、すり減っていた」。彼に恋愛感情はなかったハズなのに、まるで失恋したかのような大きな傷を負ってしまう。
「私が『ハーフ・オブ・イット』を執筆したのは、あの友情を失った痛みと向き合うためだった」(監督のことばより抜粋)
そう、16年ぶりの新作は、彼女が自分自身の青春時代と正対する為につくられた作品であり、何よりも彼女自身が治癒されるべく作られた映画だったのだ。
第92回アカデミー賞で最優秀監督賞に輝いたポン・ジュノは、受賞のスピーチで「私がまだ若く映画を勉強していた時に、感銘を受けた言葉がありました。それは、“最もパーソナルなことが、最もクリエイティブなことだ”。これは、偉大なマーティン・スコセッシの言葉です」と語った。まさしく『ハーフ・オブ・イット』は、それを証明した一本といえるだろう。