2020.06.21
俳優たちの“顔”から放たれた強烈なインパクト
ビジュアルな点で、もうひとつ上げておかねばならないのは、役者たちだ。アルモドバルは本作でクローズアップを多用し、その表情を切り取る。「この映画には、あらゆる顔にインパクトがある」と、アルモドバルは語る。
ペパを演じたヒロイン、カルメン・マウラはクローズアップが多く、妙齢の女性の焦燥が表情から鮮明に伝わってくる。マウラはアルモドバルとの親交が深く、彼の初監督作『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』(80)では出演のみならず製作資金集めにも奔走。以後の出演作にも度々重要な役で出演している。アルモドバルとの6度目のコラボレーションとなった『神経衰弱ぎりぎりの女たち』では、スペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞で主演女優賞を受賞した。
『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(c)Photofest / Getty Images
怒れるルシアを演じたフリエタ・セラーノ、処女のこどく生真面目なマリサにふんしたロッシ・デ・パルマもアルモドバル作品ではおなじみの顔。『ぺイン・アンド・グローリー』で久々にアルモドバル作品に復帰したベテラン、セラーノは、ここではクライマックスでの大立ち回りに加え、とんがったつけまつげも忘れがたい。一方のデ・パルマは、ときに“ビカソの絵のよう”と語られるほどの個性的な顔の持ち主だが、こちらもイイ味を出している。
これらの女優陣に加えると、カルロス役のアントニオ・バンデラスは、少々分が悪いかもしれない。とはいえ、本作でブレイクを果たしたのはまぎれもない事実。イケメンだが吃音で、当人のセクシーなラテン系俳優というイメージとは少々異なる点が味だ。何より、アルモドバルが2作目の『セクシリア』から新作『ペイン・アンド・グローリー』にいたるまで、分身として頻繁に起用してきた盟友というべきアクターだ。本作での軽妙な演技は、ある意味レアで、一見の価値がある。