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『ダウン・バイ・ロー』モノクロで綴る、トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー、ロベルト・ベニーニの”親しき関係”

『ダウン・バイ・ロー』モノクロで綴る、トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー、ロベルト・ベニーニの”親しき関係”


幻想的なモノクロの映像



 そんなスバル座での成功から30年以上の歴史が過ぎたが、この2作品は今も根強い人気を誇っている。


 監督自身はその後もマイペースで活動を続け、インディペンデント映画の独立精神を貫き続けている。ゾンビ映画に初挑戦した『デッド・ドント・ダイ』(19)は日本でも封切られ、コロナ後の客席数を制限した公開にもかかわらず、興行的には健闘。


 そんなジャームッシュのフィルモグラフィを振り返った時、実はひとつの分岐点になっていたのが『ダウン・バイ・ロー』ではないかと思う。


 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の方はアメリカのインディペンデント映画として画期的な成功をおさめ、その後、『ダウン・バイ・ロー』に着手。



 どちらもジョン・ルーリーが出演していて、モノクロ撮影、という点は共通点だが、この2本には大きな違いがある。


 まずは撮影のクオリティだろう。実は『ダウン・バイ・ロー』を作る時、監督は前作と同じ撮影監督、トム・ディチロを起用する気でいた。彼はジャームッシュとニューヨーク大学で知り合った仲間のひとりだ。


 ところが、ディチロはこの申し出を断わり、自身の監督作に取りかかったという(デビュー作はブラッド・ピット主演の『ジョニー・スエード』(91))。「そこで遂にロビー・ミューラーと組む素晴らしいチャンスが巡ってきたというわけだ」とジャームッシュは答えている(94年、ミネアポリスの「Walker Art Certer」で行われたジャームッシュ回顧展でのインタビューより)


 ミューラーはジャームッシュと交流のあったヴィム・ヴェンダース監督の代表作『アメリカの友人』(77)や『パリ・テキサス』(84)などを手掛けてきたドイツの名撮影監督。ヴェンダース監督の映画は“ロードムービー”と呼ばれる旅の映画が多く、そのため、風景のとらえ方に独特の感覚が出ていた。


 『ダウン・バイ・ロー』も風景のとらえ方に監督の個性が出ている。冒頭はニューオリンズの古い街並みが移動カメラでとらえられるが、川や沼の風景も入り、ちょっとダークな雰囲気も漂っている。




 主人公はDJのザック(トム・ウェイツ)、ポン引きのジャック(ジョン・ルーリー)、謎のイタリア人のロベルト(ロベルト・ベニーニ)の3人で、彼らは冤罪で入れられた刑務所で出会う。


 そんな3人の表情の変化をカメラはとらえながら、壁と鉄格子とベッドしかない箱のような刑務所を不思議な空間として見せる。その後、脱獄して川の中を歩いたり、森の中をさまよったりするが、普通に風景を撮っているだけなのに、なんだか、幻想的な感覚があり、その風景を見ているだけで飽きない。


 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』も、『ダウン・バイ・ロー』も、どちらも写真集を見ているような気になるが、前者は最高にセンスのいいアマチュアが撮ったスナップ集、後者はテクニックのあるプロが撮った本格的な写真集に見える。


 ロビー・ミューラーという本物の撮影監督と組むことで、ジャームッシュ自身もプロの監督として成長できたのではないだろうか。モノクロの映像に関して、監督自身はこんなコメントも発表している。


 「モノクロの映像はすごくおもしろいと思う。ミニマルで、より情報のない映像なので抽象的だ。僕の世代はニュースの映像をカラーで見ていた世代なので、モノクロの映像はどこか現実離れしている映像に思える。逆にモノクロのニュース映像を見ていた世代にはカラー映画の方が現実離れしているように感じるかもしれないね。それにモノクロ映像には40年代後半のフィルムノワール映画が持っていた非現実的な感覚もあって、そこにも心ひかれ、いつまでも見ていたくなる」(「Cinema Papers」88年1月号より)


 ハリウッドの昔のモノクロの犯罪映画を意識し、「監獄場面」や「脱獄場面」も盛り込まれているが、この監督らしいオフビートな感覚も出ている。等身大の青春映画の要素が強かった『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とは異なり、ジャンル映画の要素を取り入れることで、監督としての幅広げている。


 撮影は実在するニューオリンズのオリンズ・パリッシュ・プリゾンで行われ、警備員たちに(時には)手荒い扱いを受け、恐怖感を抱きつつも、無事に進められたという。



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