2020.07.03
アレン監督の“男性像”に合わせてきたシャラメ
ではここからは、『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』の内容をみていこう。
まず、注目したいのは豪華な出演陣。アレン作品は毎度豪華なキャストで知られるが、今回はティモシー・シャラメとエル・ファニングという人気実力派の2人が顔を合わせたことでも、大いに話題を集めた。加えて、『デッド・ドント・ダイ』(19)が公開中のセレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー、レベッカ・ホールと、多彩なキャストが勢ぞろい。このメンバーが、毎度おなじみの“恋のから騒ぎ”を繰り広げるわけだ。
ニューヨークに遊びにやってきた大学生のカップル、ギャツビー(ティモシー・シャラメ)とアシュレー(エル・ファニング)。アシュレーが学校の課題で映画監督ポラード(リーヴ・シュレイバー)にインタビューをすることになり、ついでにニューヨーカーのギャツビーが街を案内しようというわけだ。2人の仲を深める最高の機会になるはずだったが、移り気な天気のようにアクシデントが頻発し、やがて空も、2人の関係も雨模様に……。
アレン監督が描く男性像は一貫しており、おしゃべりで偏屈、皮肉屋。本人を投影しているともいわれており、直近では『ローマでアモーレ』(12)や『カフェ・ソサエティ』(16)などの作品で、ジェシー・アイゼンバーグがその役割を担ってきた。彼の得意とする「早口演技」が、アレン監督の世界観と絶妙にマッチしていたわけだ。本作はシャラメ演じるギャツビーのモノローグから幕を開けるが、これまでの彼の出演作と比べ、その早口ぶりに驚かされるだろう。しっかりとアレン節に合わせてきている。
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(c)2019 Gravier Productions, Inc.
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19)でも御曹司を演じたシャラメだが、本作でも都会的なセレブを見事にこなしており、両作品の比較も一興だ。稀代の美青年ながら、どこか情けなさも漂う愛らしさは、シャラメの真骨頂。本作でも、雨中でオロオロする困り顔や、アシュレーに袖にされてしょぼくれる姿など、彼の魅力がよく出ている。
反対に女性像に関しては自立した、物おじしないタイプのキャラクターを描くことが多いアレン監督。近年では『ブルージャスミン』(13)、『女と男の観覧車』(17)など、堕ちていく女性の“虚栄”などにも嗜好が移ってきた印象だ(本作でも、後半の重要なシーンにこの描写が見られる)。今回は、ファニング演じる純粋無垢なアシュレーと、ゴメス扮する口達者なチャンの2人が対比されており(この構造は『カフェ・ソサエティ』に近いかもしれない)、ファニングの軽やかでイノセントな演技と、ゴメスのドスの利いた重量感ある演技のギャップが興味深い。