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『ホット・サマー・ナイツ』派手なルックは見せかけ―冴えわたる技巧と思考
2019.08.17
※2019年8月記事掲載時の情報です。
『ホット・サマー・ナイツ』あらすじ
1991年は、激動の年だった。湾岸戦争が始まり、フレディ・マーキュリーはエイズで逝った。これは、アメリカ東海岸に位置する美しい海辺の町に記録的な猛暑が訪れた夏、この町の“伝説“となったダニエル・ミドルトンの物語だ。
6月。夏のケープコッドには、大きく分けて二種類の人々がいる。“サマー・バード”と呼ばれる都会からバカンスを過ごすために来た金持ちの観光客と貧乏な地元民だ。だが、ダニエルは、そのどちらでもなかった。この町で育ったわけでもなく、富裕層の子息でもない。彼のような立場は、肩身が狭く、居場所がない。高校を卒業したばかりのダニエルは、少し前に仲の良かった父親を亡くしたばかりだった。喪失感から抜け出せないまま、部屋に籠りっきりの息子を見かねた母親が、ケープコッドに住む叔母のところに大学が始まる9月までの3ヶ月間、気分転換を兼ねて送り込んだのだ。
ダニエルは、ある日、ハンター・ストロベリー(アレックス・ロー)と出会う。地元では有名なワルで危険な男だ。高校は退学させられ、大麻のディーラーとして稼いでいた。キレやすい性格で人を殺したという噂もあった。けれど、孤独なダニエルと一匹狼のハンターはなぜか意気投合した。ふたりで時間を過ごすうちに、ダニエルはハンターにたのみ込み、一緒に大麻を売りさばき始める。機転の利くダニエルが加わったことでビジネスは上手く回り始めた。勢いづいたダニエルは町の外にまでそのテリトリーを拡大させていくが、そんな彼にハンターは危険を感じ始めていた。
ダニエルは、ある日偶然、町一番の美人のマッケイラ(マイカ・モンロー)と出会い、恋に落ちる。しかし、マッケイラの兄が、じつはハンターだったのだー大切な妹に手を出すな、と告げられてしまう。それでも彼女への気持ちを抑えきれないダニエルは、ハンターには内緒で付き合い始める。初めての恋は、父を失った哀しみを癒し、ダニエルは徐々に自分を取り戻していくのだがーーー。 8月。ケープコッドに最大級のハリケーンが迫る日、ダニエルの人生は決定的に変わろうとしていた……。
Index
『君の名前で僕を呼んで』のティモシーは“序章”に過ぎなかった
ギリシア彫刻のような端正な顔立ち。吹けば消えてしまいそうな幽玄な雰囲気。驚異的な演技力に、無垢と高貴が入り混じったオーラ。現在23歳のティモシー・シャラメは、近年最も成功した若手俳優の1人だ。
フランス人の父とアメリカ人の母の間に生まれた彼は、幼少期から数々のCMやドラマに出演。クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14)で主人公の息子役に抜擢され、『君の名前で僕を呼んで』(17)でオスカー候補に選出。一躍、時の人となった。
以降、『レディ・バード』(17)『シークレット・チルドレン 禁じられた力』(15)『ビューティフル・ボーイ』(18)と出演作が続々と日本公開。順番を前後し、ようやく封切られるのが『ホット・サマー・ナイツ』(17)だ。
『ホット・サマー・ナイツ』予告
『君の名前で僕を呼んで』の公開前、ブレイク直前のティモシーがオーディションを受けたのが、本作だという。今では考えられないことだが、当時はティモシーを主演に据えることに製作陣がなかなか納得しなかったそうだ。しかし、『ホット・サマー・ナイツ』でのティモシーは、当時の不安視する声をねじ伏せ、現在の日本のファンが注ぐ期待までも十二分に満たす、圧倒的な輝きを放っている。
奥手でサエない青年が、悪の香りを醸す危険な男へと「脱皮」していく――「ひと夏の経験が全てを変える(ONE SUMMER CAN CHANGE EVERYTHING)」という本作のキャッチコピーにふさわしく、これまでに見せなかったダークな部分をさらけ出し、役者としての底知れぬ実力を存分に見せつけてくれる。『君の名前で僕を呼んで』は、あくまで片鱗に過ぎなかった――。その事実に、驚かされることだろう。
『ホット・サマー・ナイツ』(c)2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.
ちなみに、ティモシーの今後は『レディ・バード』(17)に続きグレタ・ガーウィグ監督と組むリメイク版『若草物語』(原題:Little Women)、『メッセージ』(16)のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるSF大作『Dune(原題)』、ウェス・アンダーソン監督の新作『The French Dispatch(原題)』等が控えており、『アニマル・キングダム』(10)のデヴィッド・ミショッド監督の新作『The King(原題)』ではヘンリー5世を演じる。さらに、お蔵入り状態になってしまったウディ・アレン監督作『A Rainy Day in New York(原題)』(徐々に世界各地で公開が決定)も。
ノーラン、ウェス、ヴィルヌーヴの3大監督の作品にすべて出演しているのは、彼くらいだ。「押さえておいて損はない」というレベルを優に超えた、世界的スターへと「変身」を遂げている。