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『ホット・サマー・ナイツ』派手なルックは見せかけ――技巧と思考が冴えわたる秀作

『ホット・サマー・ナイツ』派手なルックは見せかけ――技巧と思考が冴えわたる秀作

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「破滅の前触れ」を示す秀逸なタイトル



 加えて、最重要ともいえるのが本作のタイトル「Hot Summer Nights」。劇中では「熱帯夜」と訳されているが、町全体が熱に浮かされた、一種の狂騒状態をも示している。同時に、思春期特有の危うく、爆発しそうなエネルギーと見ることもできる。


 ここで注目したいのが、ダニエルが最愛の父親を亡くして精神的療養のためにこの町を訪れているという点。大人しかった青年は、この町に来たことで初めての熱に触れ、罪を犯すことで生きている実感・快感を覚えるようになっていく。




 舞台となる町は「サマー・バード」と呼ばれる富裕層が休暇に集まる時期の渦中で、ただでさえ現実感がない。大学が始まるまでの空白期間、父の死を受け入れられない空虚感、世間は夏休み期間。すべての要素がうまく合致し、ダニエルはエアポケットのような場所で、現実からの逃避を試みる。楽園ともいえる熱帯夜の真っただ中にいる間は、全てがうまく回っている。白昼夢のような、現実感のない状態。何をしても許され、ダニエルはどんどん気が大きくなり、言動がエスカレートしていく。


 しかし、熱帯夜はいつまでも続かない。それが去った後にやってくるものは何か。そう、嵐だ。つまり、このタイトル自体が、大事件=嵐の「前触れ」であるということ。熱帯夜を強引に終わらせるハリケーンの到来と同時に、ダニエルのモラトリアム期間も終わりを告げる。そうして襲い掛かってくるのは、情け容赦ない現実だ。




 先ほど文学的な演出と述べたが、タイトル・構造・展開のすべてが、具体的な効果をはっきりと想定したうえでデザインされている。そのうえで、計算できない「生」の部分をティモシー・シャラメを含めた役者陣にゆだね、作品に血や温度を通わせようとしている。そのため、理論ばかりが先行する無機質な映画にはなっていない。ティモシーたち役者陣への強い信頼をうかがわせる「人が作った作品」だ。


 軽妙で奇抜な作品に見えがちだが、掘れば掘るほどシステマチックな部分が見えてくる。それでいて、エモーショナルな部分も忘れてはいない。旬の俳優・気鋭スタジオ・俊英監督がそれぞれの才能を万遍なく発揮した――ただ「才能」だけでなく、「技巧」と「知識」に裏打ちされた、クレバーな秀作だ。



文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」



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作品情報を見る



『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』 

2019年8月16日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

配給:ハピネット/配給協力:コピアポア・フィルム PG-12指定 

(c)2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC.  All rights reserved.


※2019年8月記事掲載時の情報です。

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