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『ホット・サマー・ナイツ』派手なルックは見せかけ―冴えわたる技巧と思考
2019.08.17
『へレディタリー』監督に続くA24が認めた才能
『ホット・サマー・ナイツ』が、気鋭スタジオA24の作品であることも忘れてはならない。今や雑誌「POPEYE」や「anan」でも紹介されるほど日本国内でも注目を浴びている配給・製作会社A24だが、設立は2012年と比較的新しい。
『スプリング・ブレイカーズ』(13)と『ブリングリング』(13)のヒットで名を挙げ、キャプテン・マーベル役で活躍中のブリー・ラーソンがオスカーに輝いた『ルーム』(15)で独立系スタジオの急先鋒に。『エクス・マキナ』(15)、『ムーンライト』(16)、『ロブスター』(16)、『スイス・アーミー・マン』(16)、『20センチュリー・ウーマン』(16)、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(17)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)、『ヘレディタリー/継承』(18)といったオリジナリティの高い作品を次々に世に放ってきた。
新たなクリエイターを積極的に発掘し、これまでにない面白さを生み出すのがA24の映画製作スタイル。『へレディタリー』のアリ・アスター、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』(18)のボー・バーナム同様、本作で長編監督デビューを果たした新星イライジャ・バイナムもまた、スタジオに見初められた逸材だ。
『ホット・サマー・ナイツ』(c)2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.
1991年を舞台に設定し、カラフルな色彩とハイテンポな筋運び、エッジーな演出で畳みかけたかと思えば、後半はぐっとテンポも演出も抑えて、破滅へと向かう人間ドラマを引き立たせる。映像や演出のセンスはもちろんだが、物語の展開におけるハイからローへのギアの切り替えが非常にスムーズで、ベテランドライバーが運転する車に乗っているかのよう。一度も渋滞に巻き込まれることなく目的地へ到着でき、観客は107分の間、快適な時間を過ごせる。
情報を大量に詰め込み、色彩豊かに飾り立てながらも、ストーリーに「落ち着き」をもたらせられるバイナム監督の老獪さは、天性のものだろう。しかも、本作の舞台となる1991年当時にはまだ4歳だったというから、輪をかけて恐ろしい。リアルタイムでほぼ経験していないにもかかわらず、時代の空気感をものの見事に表現しきっている。すさまじい才能が出てきたものだ。