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『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』軽妙な“お洒落映画”に沈殿した、ひとさじの毒

(c)2019 Gravier Productions, Inc.

『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』軽妙な“お洒落映画”に沈殿した、ひとさじの毒

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2人の女性を「陽光」と「雨」で対比



 『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は、付き合って数ヶ月の男女に訪れる“危機”をベースに、両者の対比を鮮やかに描いている。将来の夢が見つからず、ギャンブルで憂さを晴らす快楽主義者ギャツビーと、ジャーナリストになる目標に向かって邁進するアシュレー。「好き」という気持ちだけでつながっていた2人の本当の属性が、ニューヨークで過ごす1日で露わになっていくのだ。


 ギャツビーを悩ませるのは、恋。対してアシュレーを葛藤させるのは、夢。どちらも人生において大切な要素で、この2人がたどる運命をドッキングすることで、我々個人の「人生の選択」について視野が広がっていくような、独特の深みがある。この辺りは、同様のテーマを繰り返し、時代に合わせてアップデートし続けてきたアレン監督ならではの妙味といえるだろう。今回も戯曲や美術等の引用が満載で、文化水準の高いハイソな人々のこじれた恋愛模様が描かれる。



『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(c)2019 Gravier Productions, Inc.


 ギャツビーに関しては、アシュレーと離ればなれになり、彼女が自分よりも仕事(と夢)を優先したことで、2人の間にあったはずの愛を疑うようになっていく。ただ、よく見ていくと2人の会話は序盤から全くかみ合っておらず、「恋は盲目」だったともいえよう。大学の中では安定していた関係が、外の世界に出たことでひび割れていく構造は、軽妙洒脱な世界観であっても、リアルで苦い。


 そんなときに登場するのが、ギャツビーの元カノの妹であるチャンだ。物おじせずに毒舌を浴びせ続ける彼女だが、不思議とギャツビーとの会話は成立する。恋愛に癒しを求めるならアシュレーだが、気安くいられるのはチャン。連絡がつかなくなったアシュレーに対して不信感を抱くギャツビーは、昔馴染みでもあるチャンへの興味を持ち始めるが……。


 本作ではアシュレーを「陽光」、チャンを「雨」で示すような演出が施されており、友人の映画に出演したギャツビーが、チャンとのキスシーンを演じた途端に雨が降り始める。それまでは顔に陽光が当たる構図だったが、この“事件”をきっかけに雨の要素が強まっていくのだ。しかし、陽光も時折差し込み、彼の心がまだ揺れている様子が、視覚的に示されている。


 天候で登場人物の心模様を示す演出は、本作の1つのテーマともいえ、抒情的に物語を彩っている。



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