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『TENET テネット』回文タイトルが暗喩するノーランの創造的ターン ※注!ネタバレ含みます。
2020.09.18
自作を反復するノーラン映画の“行く末” (※注!ネタバレ含みます。)
最後にビッグスクリーンでの鑑賞において、気が付いたことを締めとして挙げておきたい。
例えば劇中、時間逆行システムを悪用する首謀者セイター(ケネス・ブラナー)が、冷戦時代の負の遺物であるプルトニウムを奪い、それを世界消滅の手札とする。このような終末的展開は、そのまま『ダークナイト ライジング』(12)のタリア・アル・グールによる中性子爆弾テロをなぞり書きしているかのようだ。
そう慌ててクライマックスに言及せずとも、冒頭のIMAXパートで展開されるオペラハウスのテロ攻撃も『ダークナイト』(08)冒頭のジョーカーによる銀行襲撃の再生パターンだし、もはや主義主張が理屈を超え、醜悪なパラノイアと自死願望を醸し出しているセイターのキャラクターは『ダークナイト』のジョーカーがリファレンスといえるだろう。
つまるところノーランは、DCコミックスの鋳型に流し込んで構築してきたものを、今回は極めてオリジナルな形として反復しているといえる。そう考えると『007』のあからさまなテイストも、『TENET テネット』が既成フランチャイズとの完全決別を示すものと考えれば、次へと継続されるシリーズ化の性質のものではないのかもしれない。
『TENET テネット』(c) 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved
そしてなんといっても、スーパーヒーローを硬質なアレンジで現実世界に置換し、コミックスの自由性を鼻で笑うような肉付けをほどこしながら、それでも最終的に正義の存在を心から賞賛した『ライジング』のような属性が、この『TENET テネット』には見受けられる。時間の逆行を経て生まれる、キャラクターどうしのホットな再会や運命づけられた邂逅も、クールなノーランにしては情緒に訴えるものがある。
ハイコンセプトを掲げ、世間の反応を達観しているかのような『TENET テネット』だが、じつのところ彼のロマンチストな性格を浮き彫りにし、作品を愛してくれるファン感情に寄り添った作品といえる。
これらを踏まえると『TENET テネット』という回文タイトルも、これらノーランの創造的ターンを示していると好解釈もできるのではないだろうか。
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。Twitter: @dolly_ozaki
『TENET テネット』
9月18日(金)全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html
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