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『グラン・トリノ』イーストウッドだからこそ果たし得た“次世代への継承”と“贖罪”の物語 ※注!ネタバレ含みます。
典型的な保守系アメリカ人としてのウォルト・コワルスキー
インタビューによると、イーストウッドが『グラン・トリノ』のシナリオに出会ったのは、『チェンジリング』(08)の作曲段階だった。これが脚本家デビューとなるニック・シェンクによるシナリオを一読し、自らが監督・主演することを即決したという。
イーストウッド演じる主人公ウォルト・コワルスキーは、かつて朝鮮戦争に従軍した経験を持つ元自動車工で、強靱さ・逞しさを信条とするマチズモで、人種差別発言を繰り返す偏屈なレイシスト、という設定。アメリカ中西部のミネソタに育ち、長い間工事現場のドライバーとして働いてきたニック・シェンクの周りには、そんな男たちで溢れていた。コワルスキーは映画のために創作された性格破綻者ではなく、現実の保守系アメリカ人をそのまま引き写したキャラクターなのである。
『グラン・トリノ』(c)2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
さらにニック・シェンクは、コワルスキーにポーランド系アメリカ人という設定を割り当てた。ポーランド系と言われても我々日本人にはあまりピンとこないが、とりあえず著名人の名前を列挙してみよう。ビリー・ワイルダー (映画監督)、アラン・J・パクラ(映画監督)、ローレン・バコール(女優)、スカーレット・ヨハンソン(女優)、チャールズ・ブコウスキー(作家)、マリリン・マンソン(ミュージシャン)、ハルク・ホーガン(プロレスラー)、バーニー・サンダース(政治家)、カール・セーガン(天文学者)…。うーむ、なかなかに多士済々な顔ぶれである。
ちょっと古いデータだが、2010年のアメリカ国勢調査によれば、ポーランド系の出自は全体の3.0%。1位のドイツ系が17.1%、2位のアフリカ系が13.6%、3位のアイルランド系11.6%と続く中で、7位のイタリア系5.9%に次ぐ数字。人類のるつぼといわれるアメリカの中でも、マイノリティの部類だろう。