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『グラン・トリノ』イーストウッドだからこそ果たし得た“次世代への継承”と“贖罪”の物語 ※注!ネタバレ含みます。
ポーランド系アメリカ人とモン族との邂逅
少しだけ歴史もさらっておこう。ポーランドからの移民は、西部開拓時代に技術者としてアメリカにやってきたのが始祖とされているが、その数が増加したのは20世紀に入ってから。17世紀に入植していたイギリス系、オランダ系、ドイツ系、フランス系、スウェーデン系よりも、はるかに後発組。同じ時期にアメリカにやってきたイタリア系と同じく、彼らは不当な差別を受けながらも、必死に新大陸で仕事に従事してきた。
国からの援助を受けず、自分たちの力だけで日々の生活を生き抜いてきた自負があるためか、税金を他人の福祉に回すオバマ・ケアには大反対している者が多数。政治的には、トランプ政権支持の基盤を成す保守系のブルーカラーが多数を占めている(と言われている)。つまりポーランド系は、アメリカ入植後発組だからこそ「アメリカ人として認められたい」という想いを強く抱き、保守へと傾倒した人々が多いのである。
『グラン・トリノ』(c)2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
モン族は、さらに後発の移民たちだ。映画のなかでモン族の少女スーが説明したとおり、彼らはもともとラオス、タイ、中国に居住地を構えていた山間民族。ベトナム戦争が勃発した際にはアメリカに味方するが、その後共産主義勢力の報復を恐れてアメリカに逃れてきた。ある意味で、歴史の犠牲者といえるだろう。
『グラン・トリノ』は、長い間差別に苦しんだ末に保守系アメリカ人としての地位を築いたポーランド系と、戦争に巻き込まれてアメリカに逃げ込んだものの、新天地で差別を受けることになってしまうモン族が邂逅を果たす物語なのである。