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『インディアン・ランナー』ショーン・ペン、伝説の監督デビュー作。ブルース・スプリングスティーンの名曲との深く親密な関係

『インディアン・ランナー』ショーン・ペン、伝説の監督デビュー作。ブルース・スプリングスティーンの名曲との深く親密な関係

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スプリングスティーンの世界を、ペンが“自分のうた”として歌い直す



 映画のあらすじの代わりに、この曲の歌詞を一部紹介しよう。


 “My name is Joe Roberts, I work for the state”

 (俺の名前はジョー・ロバーツ。国のために働いている)


 “I’m a sergeant out of Perrineville barracks number 8”

 (パリーンヴィルの8番宿舎の警察官さ)


 “I always done an honest job as honest as I could”

 (いつもできる限り正直に働いてきたつもりだぜ)


 “I got a brother named Franky and Franky ain’t no good”

 (フランキーという弟がいるんだが、奴は問題ばかり起こしている)


 この歌詞の通り、『インディアン・ランナー』は真面目な警察官ジョー(デヴィッド・モース)と気性の荒い問題児フランク(ヴィゴ・モーテンセン)というネブラスカ州の兄弟の物語だ。工業地帯として知られる米中西部で、時代設定は1968年。当時はべトナム戦争の真っ只中。フランクは1965年に入隊。ジョーは農業を営んで、美しいメキシコ人女性マリア(ヴァレリア・ゴリノ)と結婚し、幸福な家庭を築いていたが、農業が経営難に陥って警官になった。しかし抵抗する逃走犯を射殺してしまい、正当防衛とはいえ苦い悔恨に苛まれている。そんな折、フランクがヴェトナムの戦場から帰ってくる――。こういった導入部も「ハイウェイ・パトロールマン」の歌詞世界をそのまま膨らませたものである。



 もともとスプリングスティーンはアメリカ社会の現実や歴史に根ざしたストーリーテラーであり、楽曲の多くは労働者階級のリアルな人生模様を描く映画のようだとも評される。特に1949年生まれという世代性もあり、青春時代やキャリアの初期にぶち当たったヴェトナム戦争への言及が多い。


 『インディアン・ランナー』の素晴らしさは、そんなスプリングスティーンが提示した物語の素を、監督のショーン・ペンが完全に“自分のうた”として歌い直していることだ(出演はしていないが、脚本はペン自身が手掛けている)。ご存じの通り、実際彼には破天荒な弟がいた。薬物の過剰摂取などが原因で、40歳の若さで急逝した俳優のクリス・ペン(1965年生~2006年没)だ。実際の犯罪事件をモデルにした青春映画の秀作『ロンリー・ブラッド』(86/監督:ジェームズ・フォーリー)では、若き日のショーンとクリスが兄弟役で共演もしている(ちなみに本作の主題歌は、当時ショーン・ペンの妻だったマドンナの「リヴ・トゥ・テル」)。



 以上を踏まえると、明らかにショーン・ペンは、デヴィッド・モース扮する“愛する問題児の弟を気に病む兄”に自己投影するところが大きかっただろう。だが一方、新進時代のヴィゴ・モーテンセン(当時32歳)が鮮烈な演技を見せる、弟役のフランクは、俳優ショーン・ペンが演じてもおかしくない役だ。


 肉体に染みついたような闇と狂気、暴力衝動……『ロンリー・ブラッド』や『デッドマン・ウォーキング』(95/監督:ティム・ロビンス)などでショーンが扮した主人公はその意味で“フランク的”と言える。すなわち監督ショーン・ペンは、ジョーであり、フランクでもある、という読み方が可能だろう。おそらく彼は自らの内に蠢く葛藤、複雑な二面性を、シンガーソングライター的な“作家映画”として独自のアートフォームに昇華したのだ。



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