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『インディアン・ランナー』ショーン・ペン、伝説の監督デビュー作。ブルース・スプリングスティーンの名曲との深く親密な関係

『インディアン・ランナー』ショーン・ペン、伝説の監督デビュー作。ブルース・スプリングスティーンの名曲との深く親密な関係

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“インディアンの使者”のメッセージとは?



 そしてもうひとつ、この映画には重要なファクターが付与されている。それがタイトルにもなった“インディアン・ランナー”(インディアンの使者)という観念だ。


 ネブラスカはもともと様々な先住民(ネイティヴ・アメリカン)の部族が住んでいた地域として知られるが、当時人類学の本をよく読んでいたというショーン・ペンは、そこからスピリチュアルな啓示を受け取ったのだろう。映画の中盤でフランクはこう言う。


 「25マイル北にスー族がいた。南西10マイルにもだ。ここが森だった頃、インディアンの使者がここを駆けていた。親父が言ったのさ。“時間と空間を超え、使者はメッセージとなる”。狼も熊もメッセージは食えないのさ」。さらに彼はこう続ける。「俺は使者だ。メッセージだ。メッセージは、捕まらない」。


 メッセージは、捕まらない――。この宣言の通りにフランクは、彼を“捕まえようとするもの”から逃げ続けることになる。恋人のドロシー(パトリシア・アークエット)が妊娠して、ささやかな結婚式を挙げてから、フランクはまともな仕事に就き、幸福で平穏な日常をスタートさせるが、やはり真っ当な市民生活には安住できない。『インディアン・ランナー』をめぐる論評では、フランクの破壊的な行動は、戦場でPTSDを負ったヴェトナム帰還兵であることでしばしば説明される。だがそれ以上に、彼は自身の内に深く巣喰う実存的な宿業に突き動かされているのではないか。社会のコードに体良く収まろうとした時、フランクの心の中には“インディアンの使者”が荒々しく駆けてくるのだ――。


 筆者はフランクの姿から、堅気の生活に染まり切れぬ男の宿業を描いた金子正次脚本・主演の『竜二』(83/監督:川島透)を連想する。この場合のメッセージとは、一般に信じられている常識や良識への巨大な疑問符とも言い換えられるだろう。ショーン・ペンはジョン・クラカワー原作、エミール・ハーシュ主演の監督第4作『イントゥ・ザ・ワイルド』(07)でも、アラスカの荒野を放浪する青年という存在自体が“メッセージ”の主人公を描いた。



 やはりフランクの在り様はペンの自己言及であるとも思う。その一方、社会の中で己を機能させているジョーの側は「人生はいいものだ」と弟フランクに諭す。そして「赤ん坊の誕生は我々へのメッセージだ。“神はまだ人間に失望してはいない”と……」というインドの詩人、タゴール(1861年生~1941年没)の言葉を最後に引用し、まったく別の意味合いで“メッセージ”というキーワードを差し出す。


 つまりはジョーとフランクの心の対話、ふたつの対極的な“メッセージ”の間にペンの自問自答があるのだろう。


 これほど極私的な心情を、詩的で普遍的なドラマに仕立てた『インディアン・ランナー』は、当時亡くなったばかりのふたりの偉大な監督、ジョン・カサヴェテス(1929年生~1989年没)とハル・アシュビー(1929年生~1988年没)に捧げられている。カサヴェテスは言うまでもなく、ハリウッド・システムの中で俳優業を続けつつ、監督としてはインディペンデントな作家映画を手掛けたという点で、ペンのロールモデルとなった先人だ。そしてアシュビーの作品群は、ペンの監督作のタッチに極めて近い。特にヴェトナム戦争を背景にした『さらば冬のかもめ』(73)と『帰郷』(78)は、『インディアン・ランナー』のサブテキストとしても必見と言える。


 最後に、大切な追記を。「ハイウェイ・パトロールマン」は、この映画の中には一切流れない。だがスプリングスティーンは『インディアン・ランナー』に大変感銘を受け、ペンの監督次作『クロッシング・ガード』のために主題歌の「ミッシング」を書き下ろしている。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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(c)Photofest / Getty Images

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