歌の実力と知名度を考えた難しいキャスティング
最終的にファントムに決まったのは、ジェラルド・バトラー。『ドラキュリア』(00)などで主演を務め、スター俳優の地位を固めていた時期なので、学生時代にロックバンドのヴォーカルを務めた程度の彼が抜擢されたのは、知名度重視だろう。シュマッカー監督によると起用の理由は「ファントム役には少々危険な荒っぽさ、ロックンロールの精神が必要だった。ジェリー(バトラーのこと)はロック風のテノールを聴かせてくれると確信できた」とのこと。
この映画の中で、ファントムがふつうに会話で語るセリフは、わずか14。残りはすべて歌で表現されるので、バトラーは過酷なトレーニングを積んで、録音、および撮影に挑んだ。ちなみにロッサムもバトラーも、役のオファーを受ける前は舞台版を観ていなかったと告白している。
『オペラ座の怪人』(C) The Scion Films Phantom Production Partnership
そのほか、クリスティーヌと恋仲になるラウル役に決まったパトリック・ウィルソンも、ブロードウェイで「オクラホマ!」や「フル・モンティ」を経験済み。こうしてメインキャスト3人は、ロイド=ウェバーの希望どおりに吹き替えなしの歌声が使われたが、ミニー・ドライバーだけはオペラ歌手のカルロッタ役ということで、その歌声は吹き替えられた。ただしドライバーは歌手としての経歴もあり、そこに敬意を表したロイド=ウェバーは、エンドタイトルに流れる「ラーン・トゥ・ビー・ロンリー」で彼女に歌声を披露してもらっている。
その「ラーン・トゥ・ビー・ロンリー」のメロディは本来、「No One Would Listen」というタイトルで、映画用に新たに作られた曲。歌詞も異なり、ファントムが劇中で歌う予定だったがカットされた(未公開映像として残されている)。
このほか、墓参りやファントムの過去の見世物ショーなど、映画のために作られたシーンには新たな音楽もつけられたが、舞台版でおなじみの曲について、ロイド=ウェバーは「キーも音程も、まったく変えていない」と、音楽に関しては徹底してオリジナルへの忠実さが守られ、その結果、舞台版からのファンも大いに満足させることになった。