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『ストレイト・ストーリー』デヴィッド・リンチらしくない? まっすぐな筆致で描くアメリカの“実相”
2026.01.15
「アーティスト」として捉えるアメリカの“実相”
さて、こうした人情ドラマを、なぜリンチが手がけたのだろうか。この企画を提案したのは、リンチ作品に主に編集で長くかかわってきた、メアリー・スウィーニーだ。『ロスト・ハイウェイ』ではプロデュースも務め、その後もプロデューサーとして重要な存在となっていった彼女は、2006年にはリンチと結婚もしている。そんなリンチの理解者といえるスウィーニーは、一緒に脚本を担当したジョン・ローチとともに、実際にアルヴィン・ストレイトの進んだ道を辿り、各地の人々に話を聞いていくことで脚本を執筆したのだという。
リンチが題材の上で興味を持った理由は想像がつく。それは、巨大な穀物倉庫が鎮座する田舎町や、とうもろこし畑が続く情景が、もともと彼が表現したかった世界だったからだろう。例えば、『ブルー・ベルベット』(86)や『ツイン・ピークス』シリーズの舞台となった町は、どちらも製材業を中心に営んでいる特徴があるが、前者はアメリカ都市郊外の閑静な住宅地「サバービア」を想起させ、後者はより荒々しい自然に接する「ロードサイド」のイメージが強い舞台だった。

『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 –STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY –Tous Droits Réservés
アメリカは広い。大都会やランドマークではなく、こうした見過ごされがちな、都市と都市との間の地帯や、物流の通過点、自然と共存する生活や畑が広がる風景。そういった場所にこそ真のアメリカの精神が宿っているという考え方は、ある種の情緒を含みながら、アメリカの多くの詩人や画家、シンガーソングライターなどに共通するものだ。
今回は、アイオワ州とウィスコンシン州という、「コーンベルト」と呼ばれる、広大なとうもろこし畑が広がる地域の典型的な風景を切り取ることで、リンチは「アーティスト」として、アメリカの“実相”を象徴的に捉えたかったのだと想像できる。そのアプローチは、これまでリンチが映像で再現してきた、アメリカを代表する画家エドワード・ホッパーのそれと通じる。実際、本作でもホッパーの作品と類似する風景が映し出される。そうした試みを見ると、リンチはここで、大掛かりなサスペンス作品の合間にリラックスした映画を撮りたかったというよりは、むしろアーティストとしての野心を燃やして本作に取り組んでいると考えるべきだろう。
この役を演じるために生まれてきた、リチャード・ファンズワース