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『ストレイト・ストーリー』デヴィッド・リンチらしくない? まっすぐな筆致で描くアメリカの“実相”
2026.01.15
この役を演じるために生まれてきた、リチャード・ファンズワース
主演したリチャード・ファンズワースは、スタントパーソンとしてキャリアをスタートし、ジョン・フォードやハワード・ホークスなどの有名監督の映画に出演し、アメリカ映画の歴史とともに生きてきた人物。リンチに「この役を演じるために生まれてきた」と絶賛され、本作の演技によって、ニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞を受賞したほか、アカデミー賞主演男優賞にも、当時の史上最年長でノミネートされている。
劇中でアルヴィンは歩行の際に杖を使い、道端に飛ばされてしまったハットを拾い上げるのにも、腰への負担が最小限になるような、リアリティある動作をしている。これは演技というより、実際にファンズワースの腰の状態が悪いためだ。以前からリンチは、『ツイン・ピークス』などの作品において、歩行器などを使ってゆっくり歩く人物を興味深く映し出している。これは、ジョン・ウェインの身体的特徴からくる歩行スタイルが、何か詩情のようなものを醸し出していたことに通じる感覚がある。

『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』© 1999 –STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY –Tous Droits Réservés
しかしアルヴィンは、ジョン・ウェインやクリント・イーストウッドが演じたような、西部劇の英雄ではない。目的地に着いたとて、それが偉業として描かれるわけではなく、大勢の人々がゴールに待ち構えて賞賛を浴びせることもない。実際のアルヴィンもまた、注目されはしたものの、TVショーの出演オファーを断るような、実直な人物なのである。劇中で細かな機転やユーモアを披露し、シシー・スペイセク演じる娘と電話越しで話して微笑む表情には、そんな本人の人間性が、ファンズワースを通して魅力的に描かれている。
時間をかけ、無謀な挑戦に挑んだ果てに迎えるのは、単に兄と並んで話すという瞬間であり、また夜空を一緒に見上げたことを、ひかえめに暗示する光景を映し出すシーンのみである。もちろん、それだけがアルヴィンの当初の望みだったのだろうから、それ以上の盛り上がりは必要がないのだろう。むしろ、そんな必要最小限の達成だからこそ、そこに人間本来の生き方や感情がストレートに感情を揺さぶろうとする。
人が人に会いたいと思う感情。そして、それを温かく見守る人々。リンチ作品のベストパートナーであるアンジェロ・バダラメンティの美しい調べのなかで、こうした人間の営みの数々を、コーン畑の風景とともにただシンプルに描ききった本作は、デヴィッド・リンチ監督が、他の作品同様に表現しようとした、アメリカの偽らざる一つの姿であり、それを彼の筆致で素直に色づけした“絵画”だったのだといえよう。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
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ヒューマントラストシネマ有楽町、ホワイトシネクイントほか全国ロードショー中
配給:鈴正、weber CINEMA CLUB
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