アメリカの憲法とスーパーヒーローの関係
アメリカ合衆国憲法第8条、第12項にはこんな条文がある。
「陸軍を編成し、これを維持する権限。但し、この目的のためにする歳出の承認は、2年を超える期間にわたってはならない。」
つまり、合衆国憲法は、常備軍(陸軍)の存在をそもそも認めていないのである(現実はもちろん、陸軍を常備している)。常備軍を持てば、権力者がいつかそれを用いて、民衆を弾圧することになる。建国の父たちはアメリカの国是「自由」を守るため、常備軍を禁じた。
トランプ大統領が全米各地で巻き起こるBlack Lives Matterによるデモを鎮圧するため、国軍を派遣しようとしたとき、国防長官をはじめ、軍人たちからも反対意見が出たのは、彼らが今も、この建国の精神を理解しているためだろう。
『ウォッチメン』WATCHMEN and all related characters and elements are trademarks of and (C) DC Comics. Watchmen (C) 2009 Warner Bros. Entertainment Inc., Paramount Pictures Corporation and Legendary Pictures. (C) 2019 Paramount Pictures.
ただし、憲法修正第2条は国民が武器を持つ権利、「武装権」を認めており、いざ有事となれば市民たちが武器を取り、彼らが「民兵」として国を守る。この「民兵」を拡大した存在こそがスーパーヒーローではないだろうか。ヒーローは権力に属さず、「民兵」として国民を守る、まさに合衆国憲法の延長線、アメリカの国是を体現する存在なのだ。
そんな彼らが現実に生活する社会は、どんな歴史をたどるのか?この思考実験をリアルに描くことこそが「ウォッチメン」の肝であり、我々の社会をヒーローを通して描き出すという行為だった。そのためにムーアは誰も試みなかった方法で作品を紡ぎだした。
「これまで誰も試したことのない、引用法を駆使して、断片的な情報を尋常でない精密さで組み合わせ、目指すべき最終形に近づけていく。難解なパズルに挑むようなものだ」
この難解なパズルは、異様な脚本として姿を表した。