(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『未来世紀ブラジル』誕生のきっかけとなったギリアムの突発的インスピレーションと名曲の調べ
なぜ、ブラジルなのか?
ただし、はっきり言ってギリアム作品の醍醐味とは、こうやって線形に系譜や関連性を辿ったり、論理的な説明を求めたりするところではない。むしろ彼の身に突発的に舞い降りたインスピレーションこそ、予測不能の創造性を思いっきり輝かせるもの。とりわけ本作に「ブラジル」という、常人が考えもしないニュアンスを持ち込んだことなどはその典型と言える。
なぜ、ブラジルなのか。どうやら事の発端は『ジャバーウォッキー』(77)の撮影で訪れたサウス・ウェールズの港町ポート・タルボット(奇しくもこの街は2018年、バンクシーがグラフィティアートを出現させたことでも話題になった)で着想したイメージにあるらしい。
『未来世紀ブラジル』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
鉄鋼業で知られるこの街では、当時、様々な作業工程によって生じる粉塵や煙や煤(すす)が周囲をうっすら染め上げていた。こんな状況にふと美しい夕日が差し込む頃、ギリアムはその脳内で、どういうわけか浜辺に腰掛ける一人の男性の姿を夢想したという。傍には一台のラジオ。その刹那、スピーカーからは、聞いたこともない陽気なラテン系の曲が心地よく流れ始める————。
かくもコントラストに引き裂かれそうな状況の中、束の間の現実逃避を決め込む男のイメージこそが、本作のインスピレーションの源となった。つまり「ブラジル」は、ラジオから流れる楽曲(最初は別の「マリー・エレナ」という曲を想定していたようだが)であるとともに、主人公の心を「ここではないどこか」へといざなう、アイコンともスイッチとも言い得る存在なのだ。