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『胸騒ぎのシチリア』ルカ・グァダニーノの”欲望3部作”の2作目が描く、欲に囚われた人間が行き着く先
屋外でのセックスがエロチックな理由
イタリア、ブルジョワ、欲望の果て、以上の3点以外にグァダニーノ作品の魅力として挙げられるのは、まず、大自然を背景に繰り広げられるセックスシーンではないだろうか。『ミラノ、愛に生きる』では、エマはシェフのアントニオが住む山荘を訪れ、蜂が飛び交う畑で、太陽の光に照らされ、汗ばみながら、ミラノの豪邸では味わったことのない快感に打ち震える。
『胸騒ぎのシチリア』では、ポールはペンを溶岩に囲まれた自然のプールへと案内し、岩の上で全裸になって横たわるペンに一瞬、欲望の視線を投げかける。それ以降はあえて描かないことで、逆に観客の想像を掻き立てる、グァダニーノならではのエロチックな演出だ。
ロンバルディアの草原で奔放に愛し合う、『君の名前で僕を呼んで』のエリオとオリバーの場合は言うまでもない。それらのシーンでグァダニーノが選択するカメラ位置と絶妙なフレーミング、そして、虫の声や草の葉が風に揺れる音を取り込んだサウンドデザインは、特筆に値するものだ。
『胸騒ぎのシチリア』(C)2015 FRENESY FILM COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED
さらに、ロケ地選びは特に重要だ。グァダニーノ作品ではいつも、背景が物語を先導する有効なツールとして効力を発揮している。人物が背景の一部に溶け込んで、自然の中で愛を育む姿は、室内よりもエロチックで、大胆に欲望を発散することの楽しさを教えてくれるのだ。
こうして、『ミラノ、愛に生きる』ではミラノ、サンレモ、フランス国境に接するカステルヴィットリオ村が、また、『君の名前で僕を呼んで』では北イタリアのベルガモ、クレマ、ガルダ湖などが登場し、ロケ地ツアーが人気となる。
そして、「胸騒ぎのシチリア」では、イタリアのパンテッレリア島に舞台を設定し、島にある前出の自然のプールや、温泉、溶岩の彫刻、山肌のレストランが背景として使われ、観客を否が応でも島の中に閉じ込めてしまう。舞台を島に限定したことで、”欲望3部作”の他の2作に比べて逃げ場がない、とは言え、心地よい閉塞感が生まれている点は見逃せない。