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『ハンナ』 寓話性とアクションに満ちた超絶少女の物語はいかにして生まれたのか?

『ハンナ』 寓話性とアクションに満ちた超絶少女の物語はいかにして生まれたのか?

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「長回し」撮影は制約を乗り越える解決法



 ちなみに、この作品について特筆すべきアクション要素として、中盤付近で投下される「長回し」がある。バスから降りたったエリック・バナが人ごみに溢れる待合所を抜けて地下へと降りていき、そこで複雑な格闘を経て、複数の追っ手を殲滅させるという一連のシーン。


 ジョー・ライト作品の長回しといえば真っ先に思い浮かぶのが『つぐない』のダンケルクの場面だが、本作でも同じピーター・ロバートソンがステディカム撮影を担当しており、その身のこなしがもたらす臨場感には、ただただ呆気にとられるばかりだ。


 なぜライト監督は長回しを多用するのか。確かに現場の士気と緊張感を高めるという効果はある。現在進行形の躍動感や臨場感をもたらすという狙いもあるだろう。だが、それ以上に彼が様々な発言の中で強調するのは、この手法が「映画作りにおける制約」を突破するのに有効だという点である。



 

 例えば『ハンナ』はこの手のジャンルにしては低予算の部類に入る。そのため通常なら撮影に150日くらい必要なところを、半分以下に抑えなければならなかった。ここで効果を発揮するのが長回し撮影だ。細かなカット割りで撮ると何日もかかってしまうところを、ひと続きのワンカットにすれば、午前中から何度もリハーサルを重ねた上で、その日のうちに一気に撮り終えることが可能となる。何度も頼ることはできないが、この可動力と創造性が、不可能を可能とする軽やかな魔法となるのだ。


 長回しだけではない。ジョー・ライトの映画作りは、言うなれば、この制約を逆手に取った発想の”軽やかさ”が一つの特徴なのかもしれない。


 古典をフレッシュに蘇らせる軽やかさ。文芸作品を斬新な手法で映像化する軽やかさ。そして未知なるジャンルにためらいもなく飛び込んでしまえる軽やかさ。それこそ人形劇に例えるなら、操り糸を使って登場人物がふわっと舞台上の重力から解き放たれるかのような跳躍が、いつもそこにある。


 正直、作品によっては不発に終わることもあるものの(『PAN』(15)などはその典型だが)、この映画界に彼の代わりになるようなユニークな人材は一人もいない。凝り固まった感覚ではなく、斬新な発想や創造性によってクリエイティヴな映画作りを続けていく点こそ、彼の持ち味。


 『つぐない』や『ハンナ』で、シアーシャ・ローナンという類稀なる才能を全く異なる輝きで生かしきったのも、彼の創造性の賜物だろう。またいつの日か、二人には人生の節目節目でコラボレーションの機会が巡ってくるに違いない。その時、互いに進化を遂げた彼らがいかなる新たなハーモニーを奏でるのか、楽しみに待ちたいものだ。



参考資料

『ハンナ』ブルーレイ(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)音声コメンタリー、特典映像

https://www.nytimes.com/2011/04/03/movies/with-hanna-joe-wright-changes-direction.html

https://www.latimes.com/entertainment/la-xpm-2011-apr-03-la-ca-hanna-20110403-story.html

https://www.indiewire.com/2011/04/joe-wright-on-directing-hanna-a-little-bit-of-a-punk-came-out-in-me-243048/

https://www.vanityfair.com/hollywood/2011/04/joe-wright-on-hanna-sucker-punch-and-russian-literature



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『ハンナ』

ブルーレイ発売中 ¥2,381+税

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(c) 2011 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

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