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『チェンジリング』クリント・イーストウッド映画における、糾弾される国家権力

(c)Photofest / Getty Images

『チェンジリング』クリント・イーストウッド映画における、糾弾される国家権力

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名状しがたい不穏さを醸し出す、ブリーグレブ牧師



 イーストウッドの怒りは警察機構だけには収まらず、凶悪殺人鬼ゴードン・ノースコットにも向けられている。物語のバランスを破壊しかねないほど、彼の処刑シーンに長々と尺をとっているのがその証左だろう。イーストウッドはあるインタビューでこんなコメントを残している。


 「映画の中で最も身も凍るようなシーンの1つは、処刑です。なぜ詳細を描くことにしたのですか?」


 「イーストウッド:詳細に説明する価値があると感じたからだ。ノースコットは有罪判決を受けた後、2年間独房に監禁され、その後絞首刑に処せられている」

indielondonの記事より抜粋


 「詳細に説明する価値があると感じたから」というのは、ぜーんぜん説明になっていない。もはや映画という表現形式を利用して、改めてノースコットに正義の鉄槌を食らわせようとしているとしか思えない。だが、あくまで私見だが、この映画で最もイーストウッドの怒りの眼差しが向けられている人物は、ゴードン・ノースコットではなく、警察の市警本部長でもなく、長老派教会のグスタヴ・ブリーグレブ牧師ではないだろうか?


 一見すると、クリスティンと共闘して警察の腐敗を追求する“正義の士”のように見えるが、どーにもこーにも胡散臭すぎ。徹底的な警察批判によって市民からの支持を集め、教会の地位を高めようとする計算高さを感じてしまうのだ。



『チェンジリング』(C) 2008 UNIVERSAL STUDIOS.All Rights Reserved.


 「警察は異議や反論など認めようとしない。(中略)戦うなら喜んで力になります」


 「牧師様、心から感謝しています。でも私は警察と戦いたいのではなく、息子を取り戻したいだけ」


 「多くの母親の息子が警察の怠慢によって犠牲になってきました。正しく戦えば不幸な事態に終止符が打てる」


 彼は言葉巧みにクリスティンを懐柔し、息子の失踪を警察との戦いに置き換えてしまう。しかもブリーグレブ牧師を演じるのは、ジョン・マルコヴィッチ!彼はかつて 『ザ・シークレット・サービス』(93)で、イーストウッドと命のやり取りをした仲ではないか。名状しがたい不穏さを醸し出すジョン・マルコヴィッチの起用は、警察だけではなく、教会への不信も感じさせるのだ。



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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『チェンジリング』

Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

(C) 2008 UNIVERSAL STUDIOS.All Rights Reserved.

※ 2020年11月の情報です。


(c)Photofest / Getty Images

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