アートの魅力と『ザ・セル』の魅力
『ザ・セル』で引用・模倣されたアート作品は、とっつきづらい難解さがあると思っている人もいるかもしれない。しかし『ザ・セル』自体はアート作品を知らなくても楽しめる強度を持った作品である。つまり、引用された各アート作品の持つ背景や意味は言語化(コンテクスト化)こそされていないが意識の中で理解はされた、ということになる。
本来アート作品の楽しみ方は印象を言語化するものでは無い。もっと広く言えば、ほとんど全ての物事の理解は言語化するのが「最終目的」では無い。さらに言えば言語自体に限界はある。例えば文字や声で再現不可能な音は存在する。
逆に意識の中は無限だ。再現不可能な音だって、意識の中で思い出すことができる。同じように言語化できない「印象」だって世の中にはある。
『ザ・セル』に引用されたアート作品の中には、頭の中だけでしか印象を持つことを許さない、何とも言えない、しかし確固たる印象を持たざるをえない作品が多くある。それらを「殺人犯の意識の中を歩き回る」という物語に落とし込むことで、すんなりと咀嚼のしやすい形にしているのが『ザ・セル』一番の魅力であろう。
文: 侍功夫
本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。
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