日本では学校の授業に「美術」があるが、なまじ「美」の文字があるために「美しさ」の学問だと勘違いしている人は多いだろう。
英語圏では同じ授業を「art:アート」と呼び、表現「手法」の意味が強い。「アート」は、美しさも内包しているが、決してそれだけでは無い。政治的な主張はもちろん、グロテスクさや死を表現するのも「アート」である。
Index
- 『ザ・セル』の超現実世界
- 『ザ・セル』に引用されるアート作品 その1
- 『ザ・セル』に引用されるアート作品 その2
- 『ザ・セル』に引用されるアート作品 その3
- 石岡瑛子の仕事
- アートの魅力と『ザ・セル』の魅力
『ザ・セル』の超現実世界
他人の意識の中に入れる特殊な装置を使い、トラウマを負った子供のセラピーを行うキャサリンの前に、刑事のピーターが現れる。女性ばかりを狙った連続殺人犯カール・スターガーを捕らえたはいいが見つけた時には昏睡状態で、生きてはいるものの意識が無いまま。しかも、スターガーは倒れる直前に女性を誘拐し、ゆっくりと溺死させる隔離装置に監禁をしているらしいのだが、その場所が解らない。そこで、スターガーの意識の中に入り、監禁場所を聞き出して欲しいと言うのだ。
女性を助けるためにスターガーの意識に入るキャサリンだが、深く捻れたスターガーの意識の世界は想像を絶する奇妙な場所だった。
『ザ・セル』は意識の中の世界を表現するために、多くのアート作品からの引用や模倣が行われている。そのことでサイコキラー映画ではあるものの、非常にファンタジックなヴィジュアル・イメージに溢れている。それら『ザ・セル』に引用されたアート作品に焦点を合わせ、表象される情景を詳らかにしていく。