2020.12.24
スコット・フランクがこだわった「天才の代償」というテーマ
スコット・フランクはかつて、天才少年を主人公にした『リトルマン・テイト』(91)の脚本を手がけた経験があった。ジョディ・フォスターの初監督作としても知られる本作は、ギフテッドとして生まれついた少年が、それゆえに周囲と馴染むことができず孤独感を募らせていくが、様々な人との出会いによって心の平穏を取り戻していく…というヒューマン・ドラマ。だがスコット・フランクには、「天才の代償」というテーマを深堀りしきれなかったという後悔があった。
その後『クイーンズ・ギャンビット』の原作を読んだ彼は、“最大の敵は自分自身”というモチーフに心惹かれる。何せハーモンはコミュ障でヤク中でアル中という、およそ主人公とは思えない超絶キャラ。過剰な依存症ゆえに肉体と精神はボロボロになるが、自分を傷つける「代償」として連勝街道を突き進む。
『クイーンズ・ギャンビット』PHIL BRAY/NETFLIX
そもそもクイーンズ・ギャンビットとは、自分の駒を犠牲することで展開を優位に進めようとするチェスの戦法のこと。タイトル自体が「天才の代償」の暗喩になっていたのだ。スコット・フランクはインタビューでこんな発言をしている。
「彼女(ハーモン)が物語の主人公であり敵対者でもあるという考えは、本当に興味深いもので、実際にチェスは、天才を語るにあたって最適な手段でした」
同時に彼は、「2時間という映画の尺では、原作の良さを伝えきることができない」とも確信していた。そこで彼は、ミニシリーズ『ゴッドレス -神の消えた町-』(17)を手がけていた縁もあって、このプロジェクトをNetflixに持ちかける。交渉の結果、上層部は製作にGOサインを出し、『クイーンズ・ギャンビット』はリミテッド・シリーズのドラマとして作られることとなった。