若葉竜也には、いい意味で熱さがない。
大衆演劇の一家の出身である彼は、役者業をあくまで「仕事」としてとらえ、余計な熱情を込めることなく向き合ってきた。「挫折に似た感覚で役者を選んだ」というスタンスは、希少で異端といえるだろう。
ただ、だからこそ、若葉の演技は明鏡止水のごとく“ブレ”がない。『葛城事件』(16)の壊れていく次男、『愛がなんだ』(19)の優しい後輩、『台風家族』(19)のチャラい彼氏――。揺らいでいる登場人物を安定感たっぷりに表現してきた彼の最新作は、AI将棋を題材にした『AWAKE』(12月25日公開)。
幼少期から棋士を目指し、奨励会に入った清田英一(吉沢亮)。彼は、プロ入りがかかった大事な対局で同世代の天才・浅川陸(若葉竜也)に敗れ、棋士の夢を諦めてしまう。だがその後、英一はコンピュータ将棋の世界にのめり込み、開発者として陸との“リベンジマッチ”に挑む――。
強者として君臨する陸だが、彼の“弱さ”や“欠落”までもしっかりと描く目線が印象的だ。しかしそこには、若葉ならではの「人物造形論」が起因していた。
まずは彼の俳優論、そして冷静な中に見せる映画愛を踏まえたうえで、作品の中身に触れていくとしよう。役柄同様にクレバーな彼の言葉を、堪能いただきたい。
Index
- 役者は「仕事」。諦めに似た感覚で選んだ
- 仲野太賀とともに、ゼロ年代映画に影響を受けた
- 友人の棋士に協力を要請した
- キャラクターではなく、「人間」として演じたいと提言
- 心地よい緊張を感じた、吉沢亮との対峙シーン
- コロナ禍で考えた、エンターテインメントの必要性
役者は「仕事」。諦めに似た感覚で選んだ
Q:過去のインタビューを拝読していると、若葉さんはすごく作品を俯瞰で観ていらっしゃると感じます。そういった目線は、どのように培ってきたのでしょう?
若葉:僕はすごく現実的で、役者を「仕事」として見ているんです。芝居がどうしてもやりたくて俳優になった感覚は皆無なんですよ、僕は大衆演劇出身で、「役者以外」をやりたいと思いながらもここまで来ちゃった人間なんです。
様々な年齢制限が出てくる二十代半ばぐらいで、友だちもみんな就職していって、自分の可能性がどんどん切られていってる感覚が強まってきた。そんな時、唯一自分が金を稼いで生活できる仕事で、役者が一番可能性が高いと思ったんですよね。
だから、覚悟を持って「役者をやろう」と思ったわけじゃなくて、ある種諦めたというか、挫折に似た感覚でこれを選ばざるを得なかった。昔から、役者というものを冷酷に見ています。
Q:なるほど。これも過去のインタビュー等を拝読すると、そんな中で廣木隆一監督と出会ったことで、少し意識が変わったそうですね(ドラマ『 4TEEN』(04)や映画『雷桜』(10)ほか)。
若葉:役者というよりも、映画に対する見方が変わった感覚ですね。だから、役者じゃなくても何でもよかったんです。映画に携わる何かができたらいいなという思いにはなりましたね。
でも当時は若かったこともあって、何か具体的に動いたというわけではなく。でも、廣木さんの作品に参加して、「こんなに難しい世界があるんだ」「こんなに曖昧な世界なんだ」とすごく感動した覚えがあります。
Q:『AWAKE』でも陸と英一はライバル関係として描かれますが、いまの日本の20代から30代前半の男優の層は、すごく厚いイメージがあります。その中で、ご自身のスタンスを貫けているのは、役者を仕事として捉える精神的な面も大きいのでしょうか。
若葉:ライバル関係というような感覚が、昔からないんですよね。「もっと売れたい」という想いが皆無で、だから別に誰がどんな動きをしていようがそんなに興味がないというか……。粛々と生きていられれば、それでいい(笑)。
そういうタイプだったから、ここまでやってこられたのかもしれません。自分の役者という職業自体、どこか馬鹿にしている部分もありますし。