最高の“どんでん返さず”映画『フォーガットン』
そして“どんでん返さず”映画の中でも、最も罵詈雑言を浴びせられ、それでいて筆者が最高に面白いと信じて疑わないのが2004年の『フォーガットン』だ。日本では「『シックス・センス』以来、最も衝撃的なスリラー!」と宣伝された、ジュリアン・ムーア主演のサイコミステリーである。
主人公は、愛する息子を飛行機事故で失ってしまった母親のテリー。深い悲しみから抜け出すことができず鬱々とした日々を過ごしているが、ある日、息子のサムの姿が写真から消えていることに気づく。やがて周囲の人々の記憶からもサムの存在は消えていき、夫すらも自分たちの間に子供はいないと言い出す始末……。
これも、ミステリーの先読みをする人なら「実はヒロインは狂っていて息子なんてそもそもいなかった」という“どんでん返し”を予想するだろう。しかし序盤30分で予想されるような“どんでん返し”で観客は満足するだろうか? そんな心配などどこ吹く風で、主人公テリーは息子の存在を証明するべき奮闘を続ける。
そして映画の中盤に差しかかり、テリーはトンデモない推論を口にする。「おかしなことを言ってると思われるだろうけど、他に考えようがない。息子の存在をすべて消し去るなんて人間業では不可能。つまり、これはすべて宇宙人の仕業なのでは!?」
さあ、この映画は前述した通り“どんでん返さず”の映画だ。つまり、テリーのトンデモな推論は100%合っていて、本当に宇宙人の仕業なのである! それがわかった瞬間、宇宙からワケのわからない力が作用して、テリーの目の前にいた人物が「びよーん!」と空の彼方で連れ去られてしまう。なんだこの映画? まだ物語は中盤である。風呂敷を広げまくって、いったいどんなオチを付けるというのか?
『ゲーム』や『アンブレイカブル』と同様、いや、それ以上に『フォーガットン』は「バカげている」と批判を浴びた。しかし、映画って理路整然としていればいいわけではない。むしろ、枠をはみ出てやるという意欲がとんでもない快作、怪作を生むこともある。“どんでん返さず”映画は決して万人には愛されないかも知れないが、これもまた一つのジャンルとして、いける口が否か、どうか身をもって試していただきたい。全然受け付けなくても責任は持てませんが、クセになる味わいが待っているかも知れませんよ。
文: 村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
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