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『U・ボート』映画公開後に作られたドラマ版を鑑賞することで気づく戦争映画の真価とは?

(c)Photofest / Getty Images

『U・ボート』映画公開後に作られたドラマ版を鑑賞することで気づく戦争映画の真価とは?

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悪臭が充満する潜水艦の狭小地獄



 映画を見てまず印象に残るのが、艦内の狭さ。『U・ボート』の主役となったのは大戦中に最も多く製造されたⅦ型Cというタイプ。全長は約67メートル、幅は6メートルほど。 艦長などの士官を除けば、兵は3人が1つのベッドを交代で使う。トイレは一つだけ。さらに食糧庫もないため、パンや果物が所狭しと置かれ、天井からはソーセージやバナナぶら下がる。風呂やシャワーもない。そんな鋼鉄のシリンダーの中で、44人もの男たちが2か月もの間寝食をともにする…。考えただけで発狂しそうである。

 

 監督のウォルフガング・ペーターゼンは、そんな狭小地獄に押し込められた男たちの生活を、匂いたつリアルさで描出してみせた。『U・ボート』製作では潜水艦の様々なショットを撮影するため、大きさの違う潜水艦がいくつも用意された。まず実物大で水に浮かぶUボートが作られたが、これは潜水することができない。潜水するカットはミニチュアで撮影した。スタジオにはUボート艦内を巨大な円筒形のセットに再現し、役者たちの演技を撮影した。



『U・ボート』(c)Photofest / Getty Images


 2か月に及ぶ過酷な航海をする設定のため、撮影は順撮り。出演者たちは、その間、髭を剃ることは禁止、太陽にあたることさえ禁じられたという。劇中で出演者たちの顔が徐々に髭面になり、目は落ちくぼみ、顔色も幽霊のように蒼白になっていくのは、メイクではなく潜水艦に閉じ込められた人間のリアルな変化だったのだ。


 艦内の狭さを実感させる、兵士たちの動きをとらえる小型カメラによる撮影も効果的だ。特にUボートが急速潜航する際の描写に注目したい。潜水艦はタンクに海水を注入して海中に潜航していくが、そのスピードを早めるためには船の先端を重くするのが効果的だ。そのため急速潜航の命令が出ると、兵士たちは狂ったように前方に駆け出し、艦首に折り重なって船首を重くし1秒でも早く海中に潜ろうとする。なんともアナログだが、この小型カメラで追いかけた兵士の全速ダッシュこそ『U・ボート』を象徴する名シーンと言えるだろう。


 さらに、航空機の爆撃によって浮上機能を失い、270メートルの海底に着底したUボートの中で、浸水の恐怖にさらされながら、戦う兵士たちの状況をみていると、観客まで潜水艦の中に閉じ込められ、酸素欠乏に陥ったような息苦しさに見舞われる。閉所恐怖症の方にはまことに要注意な映画である。


 『U・ボート』は82年に日本やアメリカでも公開され、ヒットを記録。アカデミー賞では6部門にノミネートされ、大きな評判をとった。しかし、その評価に意外な人物が異議を唱えた。原作者のロータル=ギュンター・ブーフハイムだ。




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