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『U・ボート』映画公開後に作られたドラマ版を鑑賞することで気づく戦争映画の真価とは?

(c)Photofest / Getty Images

『U・ボート』映画公開後に作られたドラマ版を鑑賞することで気づく戦争映画の真価とは?

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戦争のロマンを拒否し 拷問性を強調したドラマ版



 「戦争映画」も映画である以上、当然エンターテインメント性が求められる。自然、見せ場としての戦闘が随所に配置され、観客を飽きさせないようにする。すると戦争を知らない我々観客は、戦闘の恐怖と悲惨、死というドラマ性が横溢するロマンティックな戦争映画によって「戦争」を理解したと思い込んでしまう。しかし、ドラマ版の『U・ボート』はそんなロマンあふれる戦争を拒否している。


 鉄の棺桶さながらの潜水艦に閉じ込められ、何日も悪臭と揺れの中で耐える。その生活には何の意味も見いだせない。それは転がり落ちる岩を山の上に永遠に運び続けるシーシュポスの神話のように、終わることなき拷問だ。


  ドラマの後半、4話以降になると、Uボートは遂に敵の輸送船を発見し、魚雷でしとめることに成功する。しかし乗組員の歓喜は一瞬のものだ。すぐに駆逐艦の爆雷攻撃を何時間も受けるはめになる。命からがら逃げおおせても、さらに生還率の低い任務を命ぜられ、必死のサバイバルをする羽目になる。


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 こうして確認すると、ドラマ版『U・ボート』は、前半は戦争の拷問のような退屈と倦怠を描き、後半はひたすら攻撃を受け、その地獄をいかに生き延びるかという戦闘的な要素が強調されている。


 劇場版は、後半の戦闘を中心に描いたため原作者のブーフハイムは「安っぽい、アメリカのアクション映画」と酷評したのではないだろうか。実際にUボートに2か月乗船した彼が体験し、強烈に脳裡に焼きついたのは、文明社会から隔絶された、退屈と悪臭が支配する大海原の地獄だったのだから。


 1984年にBBC2で放送されたドラマ版『U・ボート』は700万人の視聴者を集め、イギリスの批評家からも熱狂的に受け入れらたという。さらに1985年2月にはドイツのテレビ局でもドラマ版が放送、ドイツ全世帯の50〜60%が視聴したという。


 81年の劇場版『U・ボート』は確かに素晴らしい。映画として、タイトに引き締まり、抑揚があり、劇的なテーマ曲が高揚感を与えてくれる。しかしドラマ版は、我々の高揚した鑑賞体験に留保をつきつける。「本当にこれが戦争の真実だと思うのか?」ドラマ版はそう問いかけているかのようだ。


 映画版とドラマ版をセットで鑑賞することで、私たちは戦争というコインの表と裏を体感する。『U・ボート』は映画のあとにドラマ版を生み出すという、映画史的にも珍しい製作過程を経たことで、そんな稀有な鑑賞体験を与えてくれるのだ。



文: 稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。



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