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『ダンケルク』演技の才能を開眼させた人気ミュージシャン、その後のキャリアを考えさせる
『ダンケルク』あらすじ
フランス北端ダンケルクに追い詰められた英仏連合軍40万人の兵士。背後は海。陸・空からは敵――そんな逃げ場なしの状況でも、生き抜くことを諦めないトミー(フィオン・ホワイトヘッド)とその仲間(ハリー・スタイルズ)ら、若き兵士たち。一方、母国イギリスでは海を隔てた対岸の仲間を助けようと、民間船までもが動員された救出作戦が動き出そうとしていた。民間の船長(マーク・ライランス)は息子らと共に危険を顧みずダンケルクへと向かう。英空軍のパイロット(トム・ハーディー)も、数において形勢不利ながら、出撃。こうして、命をかけた史上最大の救出作戦が始まった。果たしてトミーと仲間たちは生き抜けるのか。勇気ある人々の作戦の行方は!?
Index
新鮮な顔で実現した“ワンダイ”ハリーの出演
「若い兵士たちの視線で観客が物語を追体験できるように、新鮮な顔ぶれを求めた」。
クリストファー・ノーラン監督のこのコメントが、『ダンケルク』のキャスティングの指針を示している。ケネス・ブラナー、オスカー俳優のマーク・ライランス、ノーラン監督の常連であるトム・ハーディやキリアン・マーフィといったビッグネームも出演しているが、敵軍の包囲網から「脱出する」という作品の軸を任されるのは、フレッシュなキャストたちとなった。
しかし、兵士役の中には、スクリーンで観るのは初めてでも、なじみ深い顔も含まれている。ハリー・スタイルズだ。いわずと知れた、ワン・ダイレクションのメンバーである。『ダンケルク』は、そのハリーの俳優デビュー作。演じたのは、兵士アレックス役。ストーリーの中心となる兵士のトミーと合流し、運命を共にする役どころだ。
もしワン・ダイレクションの存在を知らない人が『ダンケルク』を観たら、新人スターの鮮やかな出現を目撃することになるだろう。それくらいハリー・スタイルズは、人気ミュージシャンとしてのカリスマ性を封印したかのように、役になりきっている。とくに海岸でトミーと並んで座り、自分たちが恐らく逃げ切れないだろう絶望感に包まれながら、その一瞬の安らぎの時間を満喫するという複雑なシーンでの彼の表情は忘れがたい。
映画初出演にもかかわらず、自然に役になりきれた理由について、ハリー・スタイルズは次のように語っている。「クリス(クリストファー・ノーラン)はテイク数が少ない。そして役のバックグラウンドをあまり説明しない。だからアレックス役のその時点の心境を自分なりに考えて撮影に臨むことになる。その結果、相手の俳優との相互作用が自然なものになった」。
監督の演出スタイルが、ハリー・スタイルズの演技の才能を自主的にめざめさせることになり、彼にとって映画デビューは最良のかたちとなった。
このようにミュージシャンから俳優への転身がうまくいったパターンは、じつに多い。