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『ヤクザと家族 The Family』移ろう時代、揺らがぬ絆。藤井道人、監督人生10年の到達点

(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

『ヤクザと家族 The Family』移ろう時代、揺らがぬ絆。藤井道人、監督人生10年の到達点

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ひとりの役者に20年分を演じさせる挑戦



 ただ、『ヤクザと家族 The Family』は言うまでもなく、「人権を奪われたヤクザを悲観的に描く」ことに特化した作品ではない。仁義なき世界で、ひとりの男が“家族”を守ろうとする物語であり、1999年から2019年という20年間の「時代」を見つめた物語だ。


 この「時代の移り変わり」を表現するにあたって、本作は1999年、2005年、2019年の3章立てにしているだけでなく、ヤクザの親分である柴咲(舘ひろし)、彼の“息子”である山本(綾野剛)、山本にかわいがられていた半グレの翼(磯村勇斗)という3世代の物語として組み立てている。それぞれが、次の世代に意志や信念を託し、受け継いでいくことで、真の意味で孤立させないのだ。


 柴咲の背中を見て育った山本も、その背中を追いかけた翼も、何が起ころうと信頼は揺るがない。『ヤクザと家族 The Family』で描かれる恐ろしさのひとつは、「あるものをないものにしようとする」同調圧力といえるが、家族の心の中で、彼らが「消える」ことはないのだ。



(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会


 時代・社会・世間――。全てに冷遇された山本を救ったのは、誰だったか。本作は、最終的に物語の出発点へと立ち返り、家族の強さを改めて訴えかける。目と耳をふさがれ、口を奪われても、各々の中で親父や兄貴は生き続けるということ。物語の終点が始点につながり、あるべき場所にたどり着いたとき、この「縦軸のドラマ」は完成する。


 こういった物語を完成させるにあたって、非常に重い責任がのしかかったのが、キャスト陣だ。というのも本作は、人物の20年分を演じきる技量がなければ、成立しえないから。これは場合によっては、『ヤクザと家族 The Family』の最大のウィークポイントであったともいえる。山本を演じる役者は19歳から39歳を、説得力を持って表現しなければならない。この部分に嘘臭さが少しでも混じってしまえば、冒頭から観客の没入感は削がれてしまうだろう。脚本段階で、リアリティをとことん重視したならばなおさらだ。


 ただ、主役を務めた綾野剛は、この難役を演じ切ってみせた(同じくひとりの人物の半生を演じた『日本で一番悪い奴ら』(16)での経験が生きた部分もあったかもしれない)。本作で綾野は危険なアクションもノースタントで演じ、藤井監督とも細部に至るまで徹底的にディスカッションを重ね、作品を作っていったというが、その並々ならぬ熱量は、画面からはみ出すほど。全身全霊の演技で、観る者をねじ伏せる。


 そこに、普段は温厚で柔和だが、いざとなれば周囲を震え上がらせる鬼神となる柴咲を流石の貫禄で演じ抜いた舘ひろし、若さがもたらす危うい狂気を全身からほとばしらせた磯村勇斗の死力を尽くした熱演が加わり、本作は「映画」として生を受けるに至った。各々の一世一代のパフォーマンスに圧倒されつつ、それぞれが抱き合うシーンに「継承」のメッセージを強く感じることだろう。家族はいつの世も、不可侵で不壊の聖域なのだ。




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