2021.01.30
「煙」をビジュアルテーマにした、緻密な画面設計
脚本に込められたリアリティを損なうことなく、増幅してみせた役者たちの力演。そして、藤井監督の類まれな映像センスが、ドラマのエモーションをどこまでも高めていく。
『デイアンドナイト』では「風」、『新聞記者』では「落ち葉」と、これまでの作品でもビジュアルテーマを設定してきた彼は、『けむりの街の、より善き未来は』を踏襲し、本作のビジュアルテーマを「煙」に定めた。「火のない所に煙は立たぬ」というが、煙というものは、往々にしてマイナスイメージを放つ存在だ。禁煙化が進む社会においては、煙の代表格ともいえる煙草が徹底的に排除されている。そのような立ち位置も、本作と重なるだろう。
さらに、藤井監督は各章ごとに「煙に巻いてきた人生」「狼煙をあげる人生」「煙たがられる人生」というテーマを冠し、映像の質感やカラーリング、カメラワークも連動して変更したという(言葉と映像が密接にリンクしている、つまりテキストを映像化する手腕は、このワードチョイスにも集約されている)。
第1章はキーカラーを赤色にして手持ち撮影がメイン、第2章は緑色にして小型クレーンを多用して撮影、第3章は青に近いローコントラストにしてフィックス(カメラを固定する)撮影と区分け。加えて、第1章と第2章はシネスコサイズ、第3章はスタンダードサイズで撮影し、変化をもたらしている。そこに、静岡県・沼津&富士付近で撮影された、煙を吐き出す工場のカットが要所に挿入され、作品としての一貫性を担保している。
『ヤクザと家族 The Family』(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
ちなみに撮影監督の今村圭佑は、『けむりの街の、より善き未来は』にも参加した藤井監督の盟友。このコンビにとっては、約10年かけて到達した総決算的作品といえるのではないか。こうした舞台裏のドラマも、作品を観終えた後は、感慨深く映る。
ここまで述べてきたように、『ヤクザと家族 The Family』は緻密な「設計」と社会を鋭く見据えた「目」によって構築されたロジカルな脚本に、作り手の「感性」が上乗せされた作品(劇中、山本の主観映像に切り替わるシーンがあるが、あれは現場で撮影監督の今村が思いついたアイデアだという)といえるが、その原動力といえるのは、ものづくりへの情熱だ。そのため、本作は冷静な部分はあれど、冷徹ではない。現実を踏まえながら、絶望感の先に生きる意味を模索しようとする。家族が象徴する“希望”が、常に画面の中に息づいている。だからこそ本作は、「映画」として人々の心に届くのだろう。
映像のクオリティ的にも、物語の強度としても、演技の姿勢も――。あらゆる面で今後の日本映画の指針になりそうな、革命的な傑作。きっと、『ヤクザと家族 The Family』を“継ぐ”作品たちが、次の10年を作っていく。新時代が、ここから始まるのだ。
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文:SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『ヤクザと家族 The Family』
2021年1月29日全国公開
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会