2021.02.19
「Fワード」だらけの金融業界とマシュー・マコノヒーの怪演
「クイーンズの小さなアパートで会計士夫婦の中流家庭に育った」――と、映画の冒頭まもなくからディカプリオ扮するジョーダン・ベルフォートがカメラ目線で我々観客に話しかけてくる。高級スーツに身を包み、『特捜刑事マイアミ・バイス』(84~89)と同じ白いフェラーリに乗り込んで、運転しながら二番目の妻ナオミ(マーゴット・ロビー)にフェラさせている。さらにこう豪語する彼。「俺はマンハッタン中をひと月ラリらせるだけの薬物を毎日やってる。腰の鎮痛剤クエイルードを日に15回、精神集中にアデロール。緊張緩和にザナックス。コカインで正気に戻し、モルヒネ……あれ最高」。
マネー、セックス、ドラッグ。万能感に溢れたベルフォートの下劣で野蛮な習性は、カネもコネもないまま最初の結婚をした頃、22歳で飛び込んだウォール街の営業フロアで培われたものだ。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(C) 2013 TWOWS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
原作は2007年に刊行されたベルフォート自身による同名の回想録。当初、邦訳は『ウォール街狂乱日記~「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生~』 (早川書房)として2008年に刊行され、2013年、映画公開に合わせて上下巻の文庫本(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)が発売された。そこからウォール街の描写を引いてみよう(訳:酒井泰介)。
「どこもかしこもファックだらけのシットまみれだった。これがウォール街の言葉遣いなのだ。それがこの力強い咆吼の核であり、うなる騒音を突いて耳に飛び込んでくる言葉だ。それが酔わせ、興奮させてくれる!」
「もはや歯止めはきかなくなっており、若いブローカーたちはデスクの下、トイレの個室、ロッカールーム、地下駐車場、そしてもちろんビルのガラス張りのエレベーターの中などで発情した」
いわゆる「Fワード」だらけの超肉食な金融業界。この中でベルフォートが最初に出会う師匠的存在が、マシュー・マコノヒーが怪演する投資銀行LFロスチャイルドの上司マーク・ハンナだ。彼が“3,2,1……Let’s Fuck!!!!”と勢いよく合図を掛けると、職場の営業マンたちは憑かれたようにセールスの電話を掛けまくる。彼はランチの席でベルフォートに「一日二回はマスをかけ」などロクでもないアドバイスをしながら、突然自分の胸をゴリラのように叩いて奇妙な唄を歌い始める。序盤しか登場しないのに凄いインパクトである。