『友だちのうちはどこ？』「素人俳優」を演出したキアロスタミの映画マジック

キアロスタミ流子どもの演出術

　劇中で親友同士を演じたのは村に住む実の兄弟で、兄ババクがアハマッドを、弟アハマッドがモハマッド＝レザを演じている。その他の役は、時間をかけてオーディションし選ばれた。それにしても、演技経験どころか、映画の撮影がどういうものかさえまったく知らない人たちに対し、キアロスタミ監督はどのように演技指導をし、演出をしていったのだろう。

　その秘密を解く鍵となる一冊の本がある。1994年に日本で刊行された「そして映画はつづく」。これはイランで出版された『友だちのうちはどこ？』のメイキング本をもとに、日本独自に編集し直した本。本作のシナリオ、助監督のプールアハマッドが詳細に記した撮影記、キアロスタミの文章などがまとめられていて、キアロスタミの演出の魔法がおどろくほど見事に描かれている。

『友だちのうちはどこ？』（Ｃ） 1987 KANOON

　キアロスタミの子どもの演出術については、有名なエピソードがある。先生に叱られ泣きじゃくる芝居がうまくできないモハマッド＝レザ役の少年にした、ある仕打ちのこと。撮影が始まる前、監督とスタッフは共謀し、少年の前でひと芝居をうってみせた。まずは美術監督が撮影してあげた写真をこっそりとプレゼントし、「助監督にはバレないようにね。写真をあげたのを知ったらひどく怒るから」と耳打ちし、少年に不安を植え付ける。そして本番、助監督は少年の持っている写真をすぐさま見つけると、怒りの声をあげ、彼の目の前でビリビリとそれを破ってしまう。その剣幕に耐えきれずわんわん泣き出す少年の姿を、監督たちは満足げに撮影し、映画史上に残る名場面ができあったというわけだ。

　今の時代、この逸話だけを読むとずいぶんと横暴にも思えてしまう。あとでしっかりフォローをして写真をプレゼントし直したとはいえ、嘘だと知らされないまま怒られ写真を破かれた少年は、本気で恐怖を感じたはず。映画の撮影のためとはいえここまでしていいのかと、眉を顰めたくなるのももっともだ。

本当のことしか演じられない俳優たち